福本明美詩集
『月光(つきあかり)』
暗雲が切れて 消えていく /真夜中 月は真上にあがった /静かに頭上に時をおとす /十万億土の遠くから /父の魂が帰ってくる (帯文より)
解説文:鈴木比佐雄 |
A5判/120頁/上製本 |
定価:2,160円(税込) |
発売:2011年11月15日
【目次】
目次
一章 月光
葉 月
月 光
声のない会話
つちのなかに
しばらくはいかない
夏の夕ぐれ
晩 夏
妙にゆるんでくる
満 月
不 在
二章 明けがた
明けがた
昼さがり
ひなた
小春日和
届かぬおもい
八年目
蝉に還る日
行き合いの空
風の行方
夜 道
三章 早 春
早 春
梅まつり
石 蕗
下宿のおばさん(一)
下宿のおばさん(二)
下宿のおばさん(三)
下宿のおばさん(四)
下宿のおばさん(五)
ほんのこのあいだまで
野辺の送り
影 響
同級生
あざみ
晩 秋
晴 朗
待合室
幻 想
喪失感 ―柳原省三を悼む―
春 潮
あとがき
略歴
詩篇
「月光」
満月の夜
光が開けた口から身体に入る
地球の熱気が
敷いたビニールシートから
背中に伝わり
組んだ指先から胸深く広がる
各自に駐車している車から
エンジンの音がする
クーラーをつけて外に出てこない
愛のひめごとは
唇から乳房に触れてほてっている
海を見渡す小高い丘の広場に
なまぐさい 風がわたる
円座して口々にしゃべっていた
私たち四人は
蚊取線香をシートの角に置いて
雑草の中に足を伸ばし 静かに憩う
樹々の向こうに見える
海面の光は静止して
ゆっくり月の力を確かめている
生きている切なさを
無限の時間の中に潜める
暗雲が切れて 消えていく
真夜中 月は真上にあがった
静かに頭上に時をおとす
十万億土の遠くから
父の魂が帰ってくる
満月の明かりがささやかに
生きる誇りを芽生えさせてくれる