コールサック社の想い

コールサック、石炭袋って、どんな袋ですか──と怪訝な顔で聞かれることがあります。どんな袋なのか、以下の文章を読んでいただき、想像してみてください。
人が社会や時代のただなかで精神的な危機に遭遇した時、生きる意味が揺らいで感動を喪失し存在への驚きを忘却し、虚しさに陥った時、詩や文学、芸術活動は、人がもう一度生き直そうとする根源的な力を深い場所から気づかせてくれるものです。政治や経済の表層では掬うことができない、もっと人の深層に迫る根源的な何かが、詩などの芸術活動の中には宿っています。その根源には、逆境の人々に対して、生きることの希望や喜びを促す詩的精神が存在しております。そんな詩的精神を体現している詩などの芸術作品を一部の愛好者だけでなく、それを欲している他の人々にも届けるにはどうしたらいいかを考えて続けて、コールサック社という出版社を設立しました。

コールサック社は、石炭屋の息子であった鈴木比佐雄が1987年12月に詩誌「COAL SACK」(石炭袋)を編集・発行する個人の出版社として発足しました。「石炭袋」という言葉は宮沢賢治の童話『銀河鉄道の夜』に出てきますが、ブラックホールや暗黒星雲のことです。賢治は異次元の入口というか「ほんたうのさいはひ」(本当の幸い)の入口だと考えて、みんなでその「石炭袋」をめざそうと志していたのです。この詩誌の当初のねらいは、そんな宮沢賢治のような詩的精神を持った志の高い詩人たちを発見し、そんな詩人たちの原石のような詩群を「石炭袋」という大きな袋に詰め込みたいと願ったことでした。
さらに読むものの心を詩の炎で燃えあがらせるために、時代の喜びや苦悩を背負って書かれた詩を読み、味わい、論じ合う言葉の芸術の場所を作り、詩などの芸術文化を深めて発信したいと考えました。またそのような詩人たちを支援するための詩論・評論・研究会活動を実現し、優れた詩人たちを後世に残す詩誌運動を実践していきたいと願ったからです。そんな詩誌「COAL SACK」は25年近く年に3回、現在2013年1月まで74号を超えるまで持続し、全国の現役の詩人たちが、毎号90~100名前後、詩や詩論、エッセイなどを寄稿してくれる詩誌にまで成長しました。

この間、優れた詩人を後世に残すために2001年には『浜田知章全詩集』(本多企画)を企画編集しました。また2003年には、創刊号から亡くなる2000年まで寄稿し支援してくれた鳴海英吉氏の『鳴海英吉全詩集』(本多企画)を2002年企画編集しました。「鳴海英吉研究会」を発足し、2012年も第6回の研究会が開かれております。これからも優れた詩人を後世に残す運動とともに、新たな詩人たちのために企画や特集を組み、生きた詩作の現場を実現していこうと願っております。
コールサック社は、2006年8月に個人企業のコールサック社から株式会社コールサック社に組織化し、詩書、評論集、芸術書の専門出版社として設立しました。株式会社として初めての仕事は、翻訳詩として「COAL SACK」(石炭袋)に1999年から7年間連載されていた韓国の詩人・高炯烈『長詩 リトルボーイ』とコールサック社の顧問でもある山本十四尾氏の詩集『水の充実』を発行しました。コールサック社は故郷と異郷の根底に広がる根源的な「詩の原故郷」を探し求める詩人を支援していきたいと考えていたので、高炯烈氏の詩集はコールサック社の志を象徴する初仕事になりました。2013年の8月でコールサック社は7年となります。その間『原爆詩一八一人集』、『大空襲三一〇人詩集』、『鎮魂詩四〇四人集』、『命が危ない311人詩集』、『脱原発・自然エネルギー218人詩集』などの企画出版や詩集・詩論集・エッセイ集などを合わせて百数十冊もの詩集・詩書などを企画・編集・製作を致しました。

それから詩誌「コールサック」創刊号から65号までは鈴木の単独編集でしたが、2010年4月の66号からは詩人の佐相憲一を共同編集人として迎えて74号まで発刊しております。また同年9月に佐相憲一は、「新鋭・こころシリーズ」の企画・編集人として、コールサック社の装丁デザイナーでもある亜久津歩の詩集『いのちづな』を刊行し、これまでに独自詩的世界を構築している優れた新鋭詩人たちの詩集8冊を刊行している。そんなコールサック社の若いスタッフと共に、詩書・評論集・芸術書などの新しい出版文化をこれからも切り拓いていこうと考えております。

今年の3月11日に起こった東北・関東大震災では3万人を超える尊い命が失われ、今も福島原発の避難者も含めていまだ各地に多くの方々が仮住まいをされています。この未曾有の大災害で苦しみながらも前を向いて生活を立て直し、共に生きていこうとしている方々の想いを汲み上げて頂こうと、現在『命が危ない 三一一人詩集』を公募し、編集作業をしております。 この夏には刊行し、生存の危機を脱して新たなる現実と格闘している方々の心を少しでも勇気付ける詩選集になればと願っております。
コールサック社は、宇宙の「石炭袋」のようでありながら、私たちの内面に存在する「いのちの袋」のような「ほんたうのさいはひ」(本当の幸せ)の領域を「COAL SACK」(石炭袋)に入れて、これから関わってくれる多くの人たちと共に、新しい時代を共に考えていきたいと願っています。

代表取締役 鈴木比佐雄

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「コールサック」(石炭袋)120号 2024年12月1日

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