ごあいさつ

「光の墓場」から自然光を生きる世界へ

マグニチュード9.0が引き起こした東北・関東大震災は、3万人ものかけがえのない命と歴史ある町や集落を奪い、数え切れない悲劇的な別れを生み出しました。後世には3・11以前と以後では、日本人の中で生きることの意味が変化したと言われるでしょう。たぶん日本人の経済優先を第一にしてきた価値観が根本から見直されることになり、電気などのエネルギーを大量に消費し、快適な生活を追求してきた生活様式から、地域や世界とつながる自然観を持って、人間だけでなく多様な命を優先する暮らしへの模索が始まると考えららます。例えばドイツでは「すべての原発を停止せよ―福島は警告している」という横断幕を掲げてベルリンなどの4つの都市で20万人以上の反核集会を開催した。3・11は核エネルギーを含めた、無限の電力に依存しようとする文明を転換させる結節点になると私には思えてなりません。

初めに引用した詩「カクノシリヌグイ 8連目」は10年近く前に書いたものです。私の父母や先祖の故郷である福島原発が、チェルノブイリのような原発事故を引き起こした地獄の光景を想像して記した後に、日本人がもう一度自然光の価値を取り戻していくことを願って書きました。その前に私は茨城県東海村原子炉での臨界事故で亡くなった大内久さん、篠原理人さんを悼んで詩「一九九九年九月三十日午前十時三十五分」も書いています。その当時もコンビニは24時間営業をしていて、私はその光景を30年が経つ老朽化した福島原発から送られる電気の「光の墓場」と名付けて心を痛めていました。3・11以後の深夜のコンビニは、明かりを半減させて、暗がりを店内に作ってひっそり営業しています。JRなどの交通機関も同様に車内や通路の照明の蛍光灯を消したり取り外しています。原発事故を引き起こした東京電力が破産しないで生き延びる唯一の道は、原発推進を断念し、稼働している原発を順次廃炉にしながら、自然エネルギーによる発電を増やしていくしかないでしょう。それを可能にさせるためには、私たちの生活様式を例えば「オール電化」の家や缶ビールなどのような電気を過剰消費に消費するものを根本から変えていく必要に迫られると想像されます。きっと企業のTVCMなどは、生活の快適さ追求する価値観の変更を迫られ、本来的な地に足がついた考えた方に変わっていくだろうと予測できます。

出版業界も同様に電子書籍が未来の出版の在り方のように語る人たちも多くいました。しかし私はそのような無意識に電気メディアに依存する人たちは、紙の本のシンプルな根源的な価値に気付いていないと考えていました。書籍とは本来的に立体であり、詩人・作家・研究者たち、企画・編集・装丁の出版社、印刷・製本会社、用紙会社などの総合芸術だと考えて、そのような本作りを実践してきました。本の魅力は著者や出版社の美意識や芸術精神や批評精神である「美しいもの」や「根源的なもの」を求める心が生み出すものです。そんな美意識や芸術精神や批評精神と読者が対話をするのが書物という精神の立体物なのだと思われます。そのような総合芸術としての書物を詩人・作家・研究者たちとコールサック社はこれからも多くの皆様に届けていきたいと願っております。そして皆様には、夜には最低限の電力を使用し、昼であれば自然光の下で、コールサック社の良書を心いくまで読んで頂ければと願っております。
今後ともコールサック社の出版活動や詩の運動へのご支援を宜しくお願いいたします。

鈴木比佐雄 略歴

1954年 東京都荒川区南千住に生まれる。 祖父や父は石炭屋を営んでいた。
1979年 法政大学文学部哲学科卒業 カント、キルケゴール、フッサール、ハイデッガー、サルトルを学ぶ。卒論はハイデッガーの詩論について。卒業後は2006年まで会社勤務。
1987年 詩誌「コールサック」(石炭袋)を創刊。
2006年 株式会社コールサック社を設立して、本格的な出版活動を開始する。

著書

1981年に第一詩集『風と祈り』を刊行、現在まで『常夜燈のブランコ』、『打水』、『火の記憶』、『呼び声』、『木いちご地図』、『日の跡』、『鈴木比佐雄詩選集一三三篇』などを含め、8冊の詩集を刊行している。
1993年に第一詩論集『詩的反復力』を刊行、1997年に『詩の原故郷へ-詩的反復力Ⅱ』、2005年に『詩の降り注ぐ場所―詩的反復力Ⅲ』、2011年に『詩人の深層探求―詩的反復力Ⅳ』を含め4冊の詩論集を刊行している。

企画・編著・出版活動

2001年に会社員の傍ら『浜田知章全詩集』、『鳴海英吉全詩集』を刊行したが、2006年に個人詩誌「コールサック」(石炭袋)を詩書専門の株式会社コールサック社にして代表となり、詩集・詩論集などの製作を開始し、高炯烈詩集『長詩 リトルボーイ』、『福田万里子全詩集』、『大崎二郎全詩集』、『原爆詩一八一人集』(日本語版・英語版)、『生活語詩二七六人集』、『大空襲三一〇人詩集』、『鎮魂詩四〇四人集』、『命が危ない 311人詩集』、『脱原発・自然エネルギー218人集』などの詩集・詩書など2012年夏現在で180冊を刊行している。

詩運動

1987年に宮沢賢治のような自己の内面を見つめ世界の苦悩を担う優れた詩人達の詩を「石炭袋」に溢れさせようと、個人詩誌「コールサック」(石炭袋)を創刊し、詩の批評も開始。現在まで74号を刊行している。

1997年に浜田知章氏の広島講演に同行し、原爆の悲劇を世界に発信すべきだという「ヒロシマの哲学」に共感し、原爆を含め、戦争の悲劇を語り継いでいく詩運動に関わっていく。その成果が2007年に『原爆詩一八一人集』、2009年に『大空襲三一〇人詩集』などの戦争責任を内面に問い続ける詩選集に結実した。

その後も2010年に『鎮魂詩四〇四人詩集』、2011年に『命が危ない 311人詩集』など生と死を根源的に問う詩選集を刊行し、2012年には『脱原発・自然エネルギー218人詩集』と現在の時代の苦悩を背負いながらも未来を切り拓いていく最も相応しいテーマで詩選集を刊行し続けている。

2003年に『鳴海英吉全詩集』出版記念会を行った後、翌年に『第一回鳴海英吉研究会』を開催し、2012年9月8日に第6回目の研究会を市川文学ブラザで開催。

韓国との交流

1999年 東京で来日中の高炯烈氏と出会い、その詩思想や詩的活動に深く共感し 「コールサック」35号より高炯烈氏の『長編 リトルボーイ』を韓成禮氏の翻訳で掲載を開始。

2001年 「コールサック」39号に日本人を助けるために列車事故で命を落とした李秀賢氏へ追悼詩「春の天空」を執筆。

2005年2月 李秀賢氏の命日に追悼詩「黒ダイヤを燃やす原故郷の人」を執筆。2月4日に釜山で開かれた李秀賢4周忌追悼追慕公演に参加し上記の詩を朗読。

9月 朝鮮通信使文化事業団の依頼で日本の実力あるジャズバンドを釜山へ 招待したいとの要請があり、「東京ファイブ・ブリッジ」マネージャとして公演に同行。

2006年8月 「コールサック」で7年間連載していた『長詩 リトルボーイ』を原爆祈念日の8月6日に発行する。8月5日には広島に高炯烈氏を招待し、出版記念会・交流会を開催する。多くの日本の詩人たちが集まり、その偉業を讃えた。

2010年9月 「コールサック」に4年間連載されていた詩篇をまとめた詩集『アジア詩行―今朝は、ウラジヲストクで』(李美子訳)が刊行される。

10月には高炯烈氏を日本に招待し、『鎮魂詩四〇四人詩集』と『アジア詩行』の合同出版記念会を東洋大学で開催した。

2012年9月 韓国のベストセラー作家の崔仁浩(チェ・イノ)の中短編小説集『他人の部屋』と純愛小説『夢遊桃源図』を、韓国純文学シリーズとして刊行。

所属

鳴海英吉事務局、宮沢賢治学会会員、日本現代詩人会理事、日本ペンクラブ会員、
日本詩人クラブ会員、千葉県詩人クラブ会員、川越ペンクラブ会員、IWA名誉会員

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「コールサック」(石炭袋)119号 2024年9月1日

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