逸見猶吉の詩作行為の全貌は、尾崎さんという研究者によって初めて多くの人にその価値が顕在化された。この書は今後に逸見猶吉を論ずる際の最も重要な研究書となり、読まれ語り継がれていくと私は考えている。(解説文・詩人鈴木比佐雄)
解説文:鈴木比佐雄 |
四六判/400頁/上製本 |
定価:2,160円(税込) |
発売:2011年11月8日
【目次】
目次
第一部 ウルトラマリンの世界
序章 逸見猶吉と根室
険阻な山岳のサンピラー
根室滞在の痕跡
ねじ曲げられた風衝林
主観的断定と根室との絆
第一章 「兇牙利」とは何か
出現時からの判じもの
ハンガリー説ときょうがり説
アッティラ王とハンガリー
内部葛藤の述懐
「兇がり」から「兇牙利」へ
不逞な精神の牙と格闘円
憑依現象と訣別の「途上」
ペルソナであった「兇牙利」
第二章 谷中村と鉱毒事件
詩碑兼墓碑銘
大野四郎の出生と鉱毒事件
田中正造の闘いと『谷中村滅亡史』
河川法準用阻止と関東大洪水
排水機問題と五万円の村債
田中正造と逸見斧吉
逸見に火を付けたもの
獣名にして虚用の「猶」
家族の来歴
第三章 内面のドラマの火
鮎川・高野の逸見評
自我を打ちのめした弾創
悩みのメビウスの帯
贖罪意識と未発表の「群」
内面のドラマの火
バー「ユレカ」と熊木市五郎
ウルトラマリンへの架橋
語尾の水平音と垂直音
出生二週間前の谷中村
第四章 ウルトラマリン
Ⅰ 報告 ウルトラマリン第一
獣性「オレ」の出現
世情・国情という外憂
内患の妄想と自虐
獣性「オレ」の総括
鬼を斬るような新風
「報告」が読めてくる資料
藤原定の「報告」鑑賞
精神の極北をゆく者たち
ウルトラマリンの衝撃波
Ⅱ 死ト現象 ウルトラマリン第三
自然と人間に対する凝視
ウルトラマリンの中の谷中村
獣性「オレ」の願望
沈黙の会話の一人劇場
ウルトラマリンとは何か
ユングの心理学と文芸作品
太古からの人類生命記憶
憑依現象としての筆情
佐呂間町字栃木という入植地
Ⅲ 厲シイ天幕
「オレタチ」の展望・生きざま
ギブス小屋の戦慄の羊歯
兇牙利の跳梁と異端者への道
大いなるものの意志
Ⅳ ベエリング
献辞の「親愛ノ人」は?
ベエリングに仮託したもの
オレタチの蒼白なベエリング
狂権政治下の明眸な邪悪
戦争待望論の中の反戦思想
Ⅴ 火ヲ享ケル
自然と絶対神との闘い「贖罪ノ館」
稀なる精神の「火ノ叫喚」
大刈鎌に跨がる侵略の歌声
偽善と正気の刺し違い
Ⅵ 冬ノ吃水
収拾つかない世界のマグマ
「非望ノ指示」を与えしもの
精神のオレと魂の君の葛藤
絶望の海に泡立つ吃水線
Ⅶ 曝サレタ歌
女々しい共同体からの出奔
兇牙利の願望の曝し歌
ひそかな敬意を込めた訣別
第五章 牙のある肖像
Ⅰ 煉瓦台にて
火気の失せた詩の世界
最も残忍な意志との婚姻
Ⅱ 大外套
灰色のバルドヰンと黒の紋章
裏がえしの低い太陽の街
大外套の襟を立てる男
ラテン帝国の初代皇帝
Ⅲ 牙のある肖像
彼等の兇なる歩みと虚しい収穫
彼等の出現経緯と世界動乱の予感
寒々しい光栄に曝される彼等
Ⅳ 悪霊
出口裕弘の「悪霊」論
舞い上がる爆弾三勇士美談
正義の鞭をならす悪霊たち
Ⅴ 蠅の家族
終駅にえぐられた跨線橋黑
地獄の骸子二つ
Ⅵ 神の犬
熱河省侵攻と東北地方の凶作
兇牙利復活願望と皇太子誕生
Ⅶ 燼
荒涼とした奈落の修羅のあがき
兇牙利の磔刑像と荊棘の詩句
吹きつのる熱気に乱れる燼
Ⅷ ナマ
生きがたい夢の燔祭
清浄に返れぬ心の血の騒ぎ
ラマ教と無分別知の般若
Ⅸ 終駅
木っ葉が飛んでる不逞の顔
棉花の逼迫と「天皇機関説」事件
時間ノ水イロとガルシン追想
屠られた黒檞のオルガン
ひりついた飢えと虚無の無残
Ⅹ 途上
世間の眼と通り魔のしわぶき
一人劇場の架空のせめぎ合い
黒い車両からはみ出す虚無
Ⅺ 銀座にて
得体のしれぬ影と紅鶴の羽音
詩に飢えた精神への果し状
第二部 火襤褸篇
第一章 満州に渡るまで
船水清の二つの逸見考
『詩と詩論』第三冊の落書き
見返しに描かれた自画像
東北女子短期大学図書館の厚意
炎のような大蝗の「群」
濁りきった仄明るい言葉
背筋に「忠君愛国」の焼き
噴火獣の餌食「老将」
得体の知れぬ日蘇通信社
第二章 満州文学と日支事変
『満州浪曼』創刊
燃焼の痕跡を念ずる「汗山」
満州の概略とツングース族
同人参加の挨拶「言葉を借りて」
孤独偏向と非浪曼
デカルト二元論とアランの反語
日露戦争と遊廓の「哈爾浜」
震撼するノモンハンの「海拉爾」
第一次ノモンハン事件と世界情勢
第二次ノモンハン事件と独ソ条約
満州生活必需品株式会社に転職
逸見と『青春放浪』の檀一雄
サン・ジャックの道「無題」
満州文芸家協会と甘粕正彦
第三章 戦争協賛詩と大東亜戦争
真珠湾奇襲と高村光太郎の詩
『デルスウ・ウザーラ』と『松花江』
仲賢礼への「追悼」文
思想締め付けの関東軍報道隊演習
二重喩法の「黒竜江のほとりにて」
探検家志望の夢
船水清の「逸見猶吉回想」
民族必死の戦い「歴史」
坂井艶司・船水清の証言
野川隆の転向者検挙事件
利害を超えた「人傑地霊」
日本の敗色と木山捷平との再会
緒方昇の転任と回想
航空文学構想と真由子
金にもならぬ詩を二〇年
安民区映画街七〇六番地と逸見の死
戦争協賛詩と言葉の呪縄
補遺
川村湊の逸見猶吉批評
田中正造の「辛酸亦入佳境」
あとがき
参考文献
略歴