コールサックシリーズ

青柳俊哉詩集
『球体の秋』

生動の存在を肯定しえない詩想から、生動の存在は万象の乖離したところに実在としてある。青柳俊哉の精神は飛翔する。その詩群は優しさにあふれている。(帯文:山本十四尾)

栞解説文:鈴木比佐雄
A5判/176頁/上製本
定価:2,160円(税込)

解説文はこちら

青柳俊哉詩集『球体の秋』

発売:2011年10月7日



【目次】

目次

Ⅰ章 古代の朝

古代の朝
古代の鴉
黒い土
清浄の朝
生まれえぬものの薔薇
否 定

Ⅱ章 夕映えの窓

夕映えの窓
白い像

三輪車
生家の白い沼に
母の雪原を転移してゆく鳥のように
空の家
夏祭りのかげで
まなざしのなかの葉かげ
K に
緑色の死
雪のように 星のように


Ⅲ章 球体の秋

原 野
花のしるし
青い花
白い花
紫陽花 一
紫陽花 二
歩廊の影
水中のグラジオラス
ほおずき
球体の秋
不安な葉
雪のふる町
雪のかなしみ

Ⅳ章 霊 蝶

霊蝶 一
霊蝶 二
霊蝶 三
石 一
石 二
石 三
肉体と風景
肉体の格子
ある意志に

Ⅴ章 永 遠

砂丘の上のベンチ
フィルター
位 相
飛行機
足 音
めざめ
投 身
陰 影
パラレル
メモラビリア(精霊たちの世界)
夜の光におもう
浄められる数式
永 遠

あとがき
略 歴


詩篇

「球体の秋」

 ある秋の夕刻 光と影の境界が消えて 陰影のない無重力の球体が生まれ 日没前の空間を密かにつつみこんでゆく 遠い扇状の山々は円やかに屈曲してまぢかに迫り上がり 薄い斜光の射す里にひぐらしの声は衰え 虫の音に混じって彼岸花の花茎が赤く染まってくる 
 むかいのマンションの屋上では 地上から高く跳ね上がったボールが白い球体の貯水槽に重なって静止し そのまま一体となる 地上でボール遊びをしていた父子が白いボールを引き剥がそうとして球体を空へ持ち上げている 球体はしだいに宙へ浮かび上がり 父子も球体を持ち上げる姿勢のまま空へ上ってゆく 空の上ではカーンカーンと金属を打ち鳴らすような不思議な音が響きだす 球体は空高く上ってゆき その光景を見ていたマンションの住人たちも 窓からバルコニーから 昇天するように空へ上ってゆく
 その夜 月光天は満月で 精霊たちは鐘を打ち鳴らして祝福し 滴るような金色の単を身に纏う女たちが 秋の糧を 満ち満ちて閉じてゆく球体の秋を 金色に発酵する月の滴で満たすのである 

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