田中作子詩集
『吉野夕景』
吉野の水を流れる桜の花びらの如きものが、この詩集にはひっきりなしに流れている。かつて日本の生活者が有していた自然や人間に対する関わり方の節度、美しさとしか言いようがない何かだ。
(帯文:以倉紘平)
解説文:鈴木比佐雄 |
A5判/96頁/上製本 |
定価:2,160円(税込) |
発売:2011年5月21日
【目次】
Ⅰ章 吉野夕景
吉野夕景
吉野旅情
梓 弓
桜が散ったあと
鉄砲百合
野草を掘る
路地の中の露地
じゃがいもの不思議
共 存
私の影が行く
初秋の言葉
音 信
旅
冬の薔薇
Ⅱ章 小さな窓
小さな窓(一)
小さな窓(二)
カラスの眼
選りわけ
野草に
一日になる
野良猫の食事
いつの間にか
わたくしの祖父(一)
わたくしの祖父(二)
地下道にて
あとがき
略歴
詩篇を紹介
「吉野夕景」
東南院多宝塔のしだれ桜は
五分咲き程であった
白いちいさな吉野の桜にはまだ早い
吉水神社前から見降す一目千本は
桜と墓が段々と重なる花の谷
浅い春のように
さむざむと眠る花の谷
満開の花にはまだとおい
峰から峰へつづく桜の中の幻
きらきらと輝く鎧武者の列
大海人の皇子
源義経
後醍醐天皇
大塔宮(護良親王)
何故か骨肉の争いの中で
この山を出て行く
四度目の吉野は
胸の中を吹き抜ける風が冷たい
吉野山は子の国と言い
生死の別れの国という意味と聞く
くもりガラスのような
夕まぐれの谷が
刻一刻と暗くなってゆく
*吉野の桜は主にシロヤマザクラと言う