コールサックシリーズ

詩選集シリーズ

『谷崎眞澄詩選集一五〇篇』

道は何処までも続き/その涯に いまは亡き祖父の入植地がある/暗い雑木林 軽便鉄道 水銀鉱山/それらが 私の幼い記憶の襞に/きれぎれに残っている//夜はランプだけが頼りであった/時折 祖父の家に集まる/一族の指という指は/すべて節くれだっていた(「雪の記憶」より)

解説文:佐相憲一、三島久美子、鈴木比佐雄
四六判/248頁/上製本
定価:1,542円(税込)

解説文はこちら

谷崎眞澄詩選集一五〇篇

発売:2010年12月12日



【目次】

詩集『夜間飛行』(一九八九年刊行)より
夢を紡む薔薇  
夜間飛行  
星 座  
星を蹴る少年  
斧  
絞首刑  
留萌海岸  
死にかけている鳩  
死化粧  
死 児  
旧 道  
根釧原野で  
雪の記憶  
ありばいⅠ  
ありばいⅡ  
高級将校  
詩集『ハーレム・ノクターン』(一九九〇年刊行)より
薔薇の下にだって  
ほどよい距離  
箸  
プライバシー  
ハーレム・ノクターン  
死刑には理由がある 
睡 魔  
季節・季節・季節工  
もうひとりの妹  
ふたりで行った………  
処刑の方法Ⅰ  
処刑の方法Ⅱ  
偽 名  
八月は哀しい月だ  
ピエタ  

詩集『秋の韓国で』(一九九二年刊行)より
透 視  
二万五千人の逃亡者  
水  
新宿ストリート・ジャーナル  
夢のなか 夢の続き  
秋の韓国で  
富山の薬売り  
冬の自画像  

詩集『樹木』(一九九四年刊行)より
森の暗闇  
手  
ユーカリの樹の葉  
樹とみずうみ  
雑木林  
シマフクロウ  
銀河鉄道  
樹 木  
樹木の死  
深い水  
ビッキの彫刻  
マッコウ鯨の円陣  
円 環  
橋 脚  
悲 歌  

詩集『人生の或る局面』(一九九五年刊行)より
森に住む友に  
例えば・水への憧れ  
真夏までの・みずうみ  
海は樹を知っている  
壺  
夕 日  
瞳  
ひばりの巣  
辺境の夜明け  
鮭  
生き埋め  
もし たましいがあるのなら  
『記憶』の現在  
春の雪  

詩集『雪の聖母園』(一九九七年刊行)より
視えない噴水  
私がみつめているのではなく  
母乳を流す女  
ウサギ汁  
ゲルニカ  
先住民族  
摘 む  
雪の聖母園  

詩集『異変』(一九九九年刊行)より
ヤクのいる世界  
希望も絶望も  
背 中  
コレクション  
鳥の意思  
雁  
アンネの薔薇  
異 変  
死にゆく語り部は世界に満ちて  
見えない罫線  
観覧車  
ホテルになった『炭鉱』  
その日  

詩集『喪失』(二〇〇二年刊行)より
喪 失  
己の哀しみの深さにたどりつけない者  
空 席  
雪を漕いでくる蟹  
空の青  
冬の夜明け  
薄暗い森の樹木の抱擁する世界へ  
鮎釣り  

詩集『リラの花咲く樹の下で』(二〇〇三年刊行)より
夏の終わりの海の歌 序に代えて  
手  
鴉  
雁  
見えない吊り橋  
ゴッホの描いた靴  
死に至る拉致  
二○○二年七月二十日の詩  
リラの花咲く樹の下で  
実 存  
単独者の悲歌  
ピアノになる木の下で  
父の死あるいは夕暮れになると集まる男たち  


詩集『移動と配置』(二〇〇五年刊行)より
移動と配置  
くるみの木  
真昼の明るい路  
塩でまぶした秋鮭  
深い峡谷のイマージュ  
深き河のごとく流れて  
ショー・ウインドー  
河に投げ込まれた橋  


詩集『斧を投げ出したラスコーリニコフ』
              (二〇〇七年刊行)より
深い穴  
役 者  
わが胸の辺りに深く  
斧を投げ出したラスコーリニコフ  
場 所  
すでに『死』は銃口のなかの銃弾に潜んで  
崖下の海辺に沿って  
窓の内側と外側  
裏窓の下の迷路  

詩集『カナリアは何処か』(二〇〇九年刊行)より
卵 このあるかなきかの重みは  
死者たちの求愛  
鈴の音  
カナリアは何処か  
〈死の季節〉としての五月  
地球よ  
空 爆  
空爆Ⅱ  
空爆Ⅲ  
空爆Ⅳ  
空爆Ⅴ  
想像力の〈内なる祖国〉の幻想さえ消えて  
火山灰地・意識の痕跡  
未収録詩篇 
ホテルの窓  
オモニ、ポコシッポ(お母さん、会いたい)  
昭和二十四年秋の修学旅行  
さむけ  
潜んでいた死の影は更に死者を求めて  
死の観覧車  
地吹雪を透かして  
見知らぬ土地で  
夜 景  
宙に激しく躍っている認識票  

解説・詩人論 
「現代社会のただなかに降る雪の詩精神」 佐相憲一 
「地球の母体へ人間を戻し続けた愛」 三島久美子 
「宇宙意志と地上の眼差しが共存する人」 鈴木比佐雄 

略 歴  



詩篇を紹介


雪の記憶


道は何処までも続き
その涯に いまは亡き祖父の入植地がある
暗い雑木林 軽便鉄道 水銀鉱山
それらが 私の幼い記憶の襞に
きれぎれに残っている

夜はランプだけが頼りであった
時折 祖父の家に集まる
一族の指という指は
すべて節くれだっていた
海を渡ってきた一族は
ふさわしい場所に入植したか
それは私の一族だけでなく
多くの入植者たちに言えることであった
何処に入植しても苦労は同じであった
開拓の夢は苛酷であり 私の一族も例外でなく
新天地を求めて 彷徨い続けた

楽しみは何ひとつとしてなく
位牌を取り出しては ぼやけた戒名を覗きこみ
幼くして死んだ者が多いのに
驚きあった

辿り着いた入植地は山峡の傾斜地であった
すべて鬱蒼とした森林
斧と鋸しかなかった
焼き畑の切り株と切り株の間に
ビートとハッカを植えた

冬は森林労働 それしかなかった
単調な生活の繰り返しから得たものは
都会への脱出であり
それを避けることは
一族の滅亡を意味した

きさらぎも末のある夜
私は祖父の入植地の傍を車で通った
祖父の家は見る影もなく崩れ落ち
雪明かりの雑木林のなかで私の血縁たちが
黙って酒盛りをしているのが
ちらっと見えた
  近くに石北峠がある



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