尾崎寿一郎
『ランボーをめぐる諸説』
ランボー論に火を付けたのは小林秀雄。次いで西条八十、小熊秀雄、中原中也までが戦前の論者。埴谷雄高が敗戦直後。後は一九六〇年以降の論者である。二一世紀に入っては中地義和、粟津則雄のみ。論考は半歩も進展しておらず、ランボー論の世界的低迷もむべなるかなだった。ランボー論が彼の生きざまと詩にまっとうに対峙して、論じられる日がくることを念じながら本書をまとめた。(「はじめに」より)
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46判/288頁/上製本 ISBN978-4-86435-257-4 C1065 |
定価:2,160円(税込) |
発売:2016年7月8日
目次
はじめに……………10
1 小林秀雄のランボー……………13
衒学的気負いの間違い文…………13 唯脳諭の如き宿命と虚無…………15
「序詩」の雑駁な断定…………17 斫断家、兇暴な犬儒派…………19
輪奐たる伽藍の破砕…………21 詩は敗北覚悟の抗言…………22
芸術という愚かな過失…………24
2 小熊秀雄のランボー……………27
反宗教的悪魔の神の子…………27 豊富な詩精神の苦悩…………28
好意的思いすごし「新しい時」…………31 牙を剝いた狼の飢え…………32
幸福感と苦痛感の握手…………34 詩の逆説と猛悪な哲学…………37
3 中原中也のランボー……………41
富永太郎との親交と失恋…………41 小林秀雄への対抗意識と幼稚さ…………42
自己執着と「サーカス」のメルヘン………44 小林との再会、小林の罪ほろぼし……47
非論理的朦朧文「感想」…………50 逸見の「感想」、草野の「追悼文」…………53
4 西条八十のランボー……………55
通り魔に憑かれた青春の発作…………55 幼児読本がヒントの「母音」…………57
豪宕な芸術作品「酔いどれ船」…………59 「ある理性に」の簡明適切な誤読………62
美も正義も目障りな呪われた詩人…………64 呑み干したのはキリスト教の毒………66
5 西脇順三郎のランボー……………69
曖昧なダダ的デフォルメ…………69 盗品の可能性あり「酔いどれ舟」…………71
相反するものの乱暴な連結…………74 象徴性に乏しく幻影的…………76
詩と訣別の歌「さようなら」…………78 盗み方は超高速度ゆえ不明…………81
6 安東次男のランボー……………83
「我慢の祭」の中の「永遠」…………83 二人の爛れた共同生活…………87
「錯乱Ⅱ」の中の「永遠」…………89 年金生活者の自虐的夢…………93
7 埴谷雄高のランボー……………97
詩人に溜まるうっ屈のガス…………97 ユングの『創造する無意識』…………99
彼を引き留めた「思想」とは…………101 母や二先輩のパリ行き妨害…………103
実験室と精神の解剖図…………105 最後の審判的怖ろしい自然…………108
8 飯島耕一のランボー……………111
非常に面白い「我とは他」…………111 東洋の叡智バラモン教…………113
シュールな花々のイメージ…………114 ダリ的毛深いコルセット…………115
言葉と言葉の恋の音韻美…………117 観念と意味で受けとめる愚…………119
デペーズマンが大好き…………120 近代文明嘲弄の「民主主義」…………122
9 粟津則雄のランボー……………125
気ままな連載『見者ランボー』…………125 主体がたちまち無残に解体…………127
思想の開花を簡潔に美しく…………128 理性の舵を捨て去る歓喜…………129
幻想に取りつかれた憑依者…………132 同性愛の全身的な惑乱…………134
奇妙なパリ行きの揚言…………135 あいまいな「正義の人」…………137
10 井上究一郎のランボー……………139
「私は一人の他者」という公理…………139 共感詩法と対立詩法…………140
「酔いどれ船」は他者…………142 透視者から錬金術者へ…………144
木片や銅への新しい認識…………146 肉体愛と普遍的慈愛…………148
酷寒の冬の「新しい時」…………151
11 平井啓之のランボー……………153
サルトルの主命題「我は他者」…………153 象徴主義に非ず「酔いどれ舟」………155
持続的関係のないイマージュ…………158 各四行節の冒頭の詩句…………159
ランボー百年、おれ四十年…………161 読解不能性の証明という回路…………164
二度の『全集』編集者…………165
12 竹内健のランボー……………167
アフリカの沈黙から逆透視…………167 醜怪な悪夢の発生装置…………169
都合のいい詩句のつまみ上げ…………171 現実と不可能事を短絡する者…………173
名だたる探検家の末裔…………175 振り返りすぎた黄金の青春…………178
13 寺田透のランボー……………181
『着色版画集』の筆蹟鑑定…………181 今更持ち出すのも恥しい…………184
健康で優しい正道への帰還…………186 華麗で強壮な宗教的世界…………188
地獄後の主人公の物語…………191 永遠に新しい忍者の変貌…………193
14 花輪莞爾のランボー……………195
シャルルヴィルの象徴は猪…………195 革命を契機に自己形成…………196
詩人と対立した代表的淑女…………198 文学本質の健全な狂気…………200
詩人を他者化する見者思想…………203 ムーズ川の船形の島…………205
竜骨破砕と河床剝離の島…………207
15 渋沢孝輔のランボー……………209
フォリソンの女体説…………209 精密なエロチシズムの城…………211
「黒」そのものの存在…………213 イマージュと音の体系…………215
一定周期の生命のリズム…………217 平井啓之訳「母音」…………219
見者たらんとした呪文…………220
16 湯浅博雄のランボー……………223
私の能力を超えた何か…………223 失われ不可能となった何か…………225
神を信じる誘惑の「毒」…………227 虚構的・神話的である「青春」…………231
両義的に揺れ動く意味…………233
17 橋本一明のランボー……………237
社会主義思想を導き出す危険…………237 黒い鳥たちと石ころの言葉…………240
美的世界を覆う偽りの瞳…………242 ランボーは遁走する革命家…………245
自己破壊の捨身と遁走の情熱…………248
18 中地義和のランボー……………251
架空の自画像を描く運動…………251 四つの局面から成る冒険譚…………252
「酔いしれた船」が見た幻想…………256 最もドラマティックな瞬間…………260
19 鈴村和成のランボー……………265
本当に彼は詩と訣別したか…………265 ブルトンが高評した「夢」…………266
含意不明な地方産チーズ…………267 『イリュミナシオン』は断片か…………269
肉親を友たちと呼ぶのはなぜ…………271 姿をくらますことを意図…………274
怪物のような母親と息子…………276
20 新城善雄のランボー……………279
中断文学「イリュミナシヨン」…………279 橋は平行宇宙の循環運動…………282
参考文献……………285
略歴……………287