吉木幸子遺稿詩集
『わが大正の忘れな草/旅素描』
自由な心を隠した戦中の化粧ではなく、敗戦後にもう一度生き直そうと襟を糺し、戦後社会に出ていく直前の自分に相応しい化粧をする「はなやいだ心」が描かれている。同時に化粧に酔うような心持ちを拒絶する、「もうひとりのわたし」の冷静な心境が読み取れる。(解説文:鈴木比佐雄 詩人・評論家)
ダウンロード不要の電子ブックが開きます。
その他にも立ち読み可能な書籍がございます
【コールサック社電子ブック立ち読みサイトはこちら】
栞解説文:鈴木比佐雄 |
A5判/304頁/並製本 ISBN978-4-86435-150-8 C1092 ¥2000E |
定価:2,160円(税込) |
発売:2014年4月4日
【目次】
Ⅰ 『わが大正の忘れな草』
わが大正の忘れな草
歩けば風もいる
五位鷺
霧の素描
ハイウェイ・ブルース
雪 女
雲と乳房
牧野は雲に近く ―久住高原―
飽食の図
風知草
花と金貨
バイソンの午後
―シスコの公園にいたアメリカ・バイソン―
吉野の庵 ―西行庵にて―
雪 国
あすか路
満天旅日和 ―三詩人へのレクイエム―
彩よせ
田園物語
冬の旅
冬の花束
紙 魚
遠い月
東京 '91 秋を歩く
東京 '91 秋を歩く 2
水と瓶
吉備路
旅 心
雲は憶えていた
かいつぶり実演する
十三夜
夏の名残
冬 空
間奏曲
菜の花は岸辺に淡く
闇という群像へ
ヴェニスの商人
ランチ・タイム
セーヌ奔流する
タイム・カプセル
望 郷
七月の波紋
老人と飛行機
水軍記
翔んだ
春の名残
初夏のエプロン
系譜の郷 ― 祖父母に―
ヴェニスの商人 2 ― 劇団四季に―
銀の糸 ― 父系の祖母ハルに―
トマト
海の手帳
海の手帳 2
都井岬
初夏を渡る
街と女と ― 鵬の中島茂に―
異端の宿
瑠璃三昧
文化祭
秋色三昧 ― 故・小田雅彦に―
Ⅱ 『旅素描』
吹上浜
天草灘
大江天主堂
肥後の赤牛
国東半島
都井岬
美保関
小豆島
箱 根
華厳の滝
シスコの蟹料理
金門橋
ディズニーランド
州 境
ラスベガスのエトランゼ
ベーカースフィールドのおもちゃ
信濃路
能登の海
立山連峰
永平寺
吉野川
吉野山
石舞台
奈良万葉植物園
開聞岳
久住高原
奥津温泉 ―藤原審爾に―
東京都
宇 宙
とろ峡
潮岬灯台
平家の里
雲海の人
ふるさと子守唄
奥津温泉 2
埼玉のひと
みちのく万緑行
足摺岬 ―ジョン・万次郎像に―
かずら橋
路傍の橋 ―朱塗り―
羚羊ひと恋い
巡業幟
霧島残照
吉野葛
壱岐の島に雨降る
天草灘残照
九州高速道雨宿り
青海島無情 ―懐旧遥かなり―
坊ノ津は海路はるか
明日香の局 ―からす瓜の旅―
Ⅲ その後の詩篇
年賀状 二千一年
旅一幕
詩碑帰る
パンより熱く
腕 204
旅を拾う
ポスト
公 園
Ⅳ 補遺
或るアプローチ
大原美術館
初出一覧
---------------------------
わが大正の忘れな草
背伸びする小さな窓口
粉ぐすりの袋に
かあさんの名を確かめる
あぐりというのは他にない
人力車が黒く光って
病院の玄関わきにいた
ちらと見えた
車夫の大きな脚もと
いつかお医者を乗せてきて
黙って待っていた人
紅いはな緒はそっと歩いた
見たくなかった
夕暮れの片隅から
その人は寄ってきた
黒っぽく音もなく
怖くて足が止まった
耳のそばで声がして
ほい と握らされた赤い林檎
いきなり駆け出したのは
とてもひとりぼっちだったから
かあさん