井野口慧子詩集
『火の文字』
消えてしまった命の思いが
ひと茎の花になって 咲いている
揺れている
広島に咲く花たちは すべて鎮魂の炎
人を愛し惜しみ悼む者の
祈りの形をして
大地に人知れず小さな灯をともす
詩「花の言葉」より
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栞解説:鈴木比佐雄 |
A5判/184頁/上製本 ISBN978-4-86435-113-3 C1092 ¥2000E |
定価:2,160円(税込) |
発売:2013年7月16日
【目次】
序詩 火の文字
Ⅰ
オルガン
あなたが座る時を
バタフライテーブル
氷解 父に
光の言葉 喪失の後に
姑
ヒメジョオン
落 葉
食卓の向こう
火山ガラス イヴに
今、ここに在るだけで
花降る日には 有元利夫「花吹」に寄せて
光の束
Ⅱ
先を歩む人へ
水の物語
その静かな源へ
苦く塩辛い海となって
たった今 この地上に
一瞬が永遠に 野口稔 油絵「無明秘抄・2012」に
永遠はここに
葡萄の樹の下で 早稲田奉仕園にて
ヤグルマギク 二〇〇六年春 東京
宙の奇蹟
Ⅲ
風に舞う紙片
風の言葉に
風の匂いに
海を渡ってくる風 「第12回アジア競技大会広島1994」に
地上の歌 二〇一二年早春
交差点
野薔薇
ツバメ
響 杉谷冨代 染作品集『水の記』に
私の今日を
Ⅳ
ふたたび私の耳に 木川陽子さんに
野の花の人 岸田衿子さんに
光の予感 麻田浩 没後十年展に寄せて
クロアゲハの日 宮地紀武さんに
惑星のひとつから 米田栄作さんに
水蜜桃
花の言葉
未明の庭に
Ⅴ
不 眠
ゲイリー・ゲイラーの椅子
小さな指跡への旅 ライッス博物館マンハイム
未 完 フィレンツェ アカデミア美術館
旅の十字路 スペイン・1997
ゆらめくものの…
ウクライナの雪鳥
乾ききったナツメヤシに雨が降り
砂漠のバラ
『わたしのヒロシマ』を描く人 森本順子さんに
初出一覧
あとがき
【詩篇紹介】
花の言葉
消えてしまった命の思いが
ひと茎の花になって 咲いている
揺れている
広島に咲く花たちは すべて鎮魂の炎
人を愛し惜しみ悼む者の
祈りの形をして
大地に人知れず小さな灯をともす
一人一人の秘められた物語に無心に寄りそい
風のひと吹きにも 声を上げようとする
悲しみに 苦しみに
鎮まれ 鎮まれ―と花びらをかかげ
そして散っていく
気の遠くなるような長く深い凍える闇と
今日一日の一瞬一瞬の光の間を
たえず往来しながら
最後のひとひらまで 舞い続けて
時を耐え抜いてきたにちがいない
鎮まれ 鎮まれ―
花は 今もどこかで 時間を失った眸を
開こうとしている