川内久栄詩集
『木箱の底から―今も「ふ」号風船爆弾が飛び続ける 増補新版』
風船爆弾製造に動員された女子挺身隊一覧表
日本全国に及んでいた
私もその一人だったと自分の手を広げる
薄くなり再生しない指紋
風船紙張りに血をにじませた手
詩「風船灯籠を作る夜―宇和島に建つ平和祈念碑」より
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栞解説:鈴木比佐雄 |
A5判/176頁/上製本 ISBN978-4-86435-118-8 C1092 ¥2000E |
定価:2,160円(税込) |
発売:2013年7月11日
【目次】
序詩 友 跳ねよ
一章「風船灯籠を作る夜」
絶対しゃべるな―あの風景が見えた日
木箱の底から―スミソニアン博物館にて
風船灯籠を作る夜―宇和島に建つ平和祈念碑
やみを行く―学徒のひとりやふたり死んでも
いまだに出走する―旧大阪陸軍造兵廠跡地
風船のタンゴ―アルゼンチンへ行きます
かえってきたパネル―夢の中で飛びつづける
秘密兵器のまちがい―戦後62年目 川之江のいちじつ
しずくのあと―おおらかなただの風船になれ
古書棚のいちじつ―焼け野原を行く
二章 「放球地点」
放球地点―偏西風に乗せて
誤爆事故五輪塔―大津町の陸軍気球連隊本部
勿来関文学歴史館―風船爆弾放流地跡わすれじ
唯一の成果―ワシントン州の送電線に落下した
特攻花の咲く頃―鹿嶋と鹿屋の海軍特攻基地跡
さようなら戦争―ふるさとが消えて
還ってきたクラゲ―松林の浜に一直線に
おまえの祈り―鎮魂の碑になった
最期の一球―私の中でしか満球にひろがらない
記念碑のこわれかた―二〇一一年三月十五日のわたし
三章 「終わりのない逃亡」
終わりのない逃亡
「ふ」号の楽舞
小さくなれ
瞬発の花車は
見えないいちじつ
知らずに食べた魚
さまがわり
海底の魚族になった
海に浮かぶ島になった
韓国へ行く
青いろの変遷(沖縄にて)
冬の海
四章 「還ってきた里道」
「ふ」号風船再現出来るかしら
いろいろな転生
私のマスコットになった
方向転換したマスコット
年賀状のお礼に
和紙を考えなおす
同じ紙子を着ながら
紙漉村の里道
還ってきた里道
写経道場
陽炎の羽根―バルーンフェスティバル二〇〇七のいちじつ
参考引用文献
「フ号作戦と勿来」チラシ・展示目録
あとがき
略歴
【詩篇紹介】
風船灯籠を作る夜
―宇和島に建つ平和祈念碑
偶然な出逢いだった
駅構内の古書イベントで
風船爆弾と表紙に大書した本を見つけた
終戦直後 放球されなかった風船爆弾も書類も焼却
闇にほおむってしまったあれから六十年も経ち
ぼつぼつ出始めた資料だった
風船爆弾製造に動員された女子挺身隊一覧表
日本全国に及んでいた
私もその一人だったと自分の手を広げる
薄くなり再生しない指紋
風船紙張りに血をにじませた手
四国方面宇和島高女の文字に
熱い想いをこみあげる
風船爆弾同期生と文字の上で再会した
うつむいたまま作業していた乙女たちの
顔も名前もしらない
白い影の静かな声を聞く
現在の名称 宇和島南高校へ委細を懇願
丁重に三冊とどく
女と太平洋戦争 女子挺身隊の手記
一冊は絶版 コピー許可 返本のこと
一冊は本代千円送金
一冊は謹呈
それからの私の日日は風船づくりに励む
風船爆弾の爆弾を外した
「ふ」号は付けた和紙で風船を折る
一枚一枚に一人一人の手記を写す
昭和の語りべ百人登場させ 完成したら
宇和島に建つ平和祈念碑にお参りしようと
あの時のように手を糊だらけにして
作りつづける風船を
灯籠のように天井に吊る