山本衞詩集
『黒潮の民』
こここそ地上の楽園
かつて見たこともない姿の亜熱帯樹林に覆われて
ここより先へ進むことを止めるように突き出した岬の突端
長い航海に倦みつかれた骨の髄までも憩わせる真水の先端
魚族たちはアシズリと名付け 大河をシマントとよんだ
詩「黒潮の民―1 ここと定めて」より
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栞解説:鈴木比佐雄 |
A5判/176頁/上製本 ISBN978-4-86435-117-1 C1092 ¥2000E |
定価:2,160円(税込) |
発売:2013年7月10日
【目次】
序詩 海
第一章 「黒潮の民」
黒潮の民
1 ここと定めて
2 さくら咲く岬の地へ
3 祖たちは海から来た
4 上 陸
5 誕 生
蘇鉄の生う岬で
不喰芋
河口に棲む
河口の村
海のソネット/二題
白 秋
半 島
潮だまり
十一歳の砂山
季節はずれ
凪の日
湊
戯詩我人伝
第二章 「美とは」
ふるさと
美とは
糸
水
メダケの時代
みどり
少年と榕樹
月桂樹
無アクセント地帯の人
真・善・美
第三章 「樋の記憶」
樋の記憶
昨 日
待 つ
号 令
蚊
人の値段
実験場
新生アニマル紀
食べなかったお弁当
惑星にのって
木洩れ日
あやまち
第四章 「倚りかかる」
はだしになって
倚りかかる
へつらわず
ひとりよがり
好き嫌い
手 を
目 は
じだんだ
スキヤキのうたはうたわない
朝刊・きょうの運勢 欄
跋詩 授業参観
あとがき
略 歴
【詩篇紹介】
黒潮の民
1 ここと定めて
だれひとり引き返そうとはおもわなかった
流星の光芒を曳きながら
北辰に光る妙見に照準をあてて走り続けた
その澄んだ流れが最初にぶつかる場所
それが 此処
こここそ地上の楽園
かつて見たこともない姿の亜熱帯樹林に覆われて
ここより先へ進むことを止めるように突き出した岬の突端
長い航海に倦みつかれた骨の髄までも憩わせる真水の先端
魚族たちはアシズリと名付け 大河をシマントとよんだ
人々はその梁にとどまり
残してきた父祖の地に因んで
木々を草々の種々を はじめての声で呼びかけた
ここには夢の巨石群が重なりあっていた
黒い石 白い石 赤い石 緑の石……―それらは
黒々と流れる海流に洗い清められて
触れるだけで光が増した
並べてみると
遠く海原を照らし
新しい人々のみちしるべとなった
ここに神を祀り仏を誘った
魚族たちのなれの果てが
それぞれに異なっていたコトバを共通に決めて
仲間の符牒としての合言葉に替えた
それゆえにこの地には
おいそれとは真似の出来ない発声と抑揚に
今もあふれているのだ