木村淳子詩集
『美しいもの』
美しいものはまだまだあるが/いちばん美しいのは//槍で突かれて血を流すこころ/流れ出る血のしずくは//初冬の空に紅いナナカマドの実となり/私たちを高みへと引き上げてくれるだろう。
(詩「美しいもの」より)
栞解説:鈴木比佐雄 |
A5判/136頁/上製本 |
定価:2,200円(税込) |
発売:2011年2月25日
【目次】
一章 春の靴
晴れ間
解 放
再 生
二月の雨に
春の靴
海を聴いている
ラミウム
散 歩
あきらめの悪い
みじかい夏だから
コスモス・センセーション
十月の夕暮れ
晩 秋
蠅
二章 月 妹に
月 妹に
ピアス
顔
う た
白い花の道
ミニアチュールの幼子の絵に
牡 丹
手と手
私の歩みが遅いものだから
いつものように
三章 美しいもの
ヨーロッパに行ったことがありますか
問うてみる
かもめ―ユーゴから来たゾランに
カサブランカ―白いゆりによせて
魔術師
彼女は黙っていた―被爆のマリア像によせて
なくなったものたちへの挽歌
代 価
翳る庭
美しいもの
あとがき
略 歴
【詩篇】
「美しいもの」
花びらの間に 露の珠を宿して
開き初めた 六月の紅い薔薇
鳩羽色の空の下 静かに
色を深める 紫陽花の青
美しいものはまだまだあるが
いちばん美しいのは
槍で突かれて血を流すこころ
流れ出る血のしずくは
初冬の空に紅いナナカマドの実となり
私たちを高みへと引き上げてくれるだろう。
黒い鳥の影が地を覆い
日暮れは早くなり
降り止まぬ大雨に大地は浸されて
すべてが押し流されてしまったが
私の心を占めるのは
あなたが約束された調和の国。
やがて秋草がそよぎながら
優しい花を咲かせる野原。
夏もまだというのに灼熱の陽に焼かれ
秋も来ぬというのに
ふいにされた穫り入れの
畑の入り口に立って思い巡らしている。