野村俊詩集
『うどん送別会』
みなさん/「思い出」はもう過ぎ去ったことだと/思っていませんか?/それは違います/過ぎ去った時間は決して戻ってはきません/けれども「思い出」は、ふと心の中に/あのときとは違う感慨で/戻ってくるではありませんか(詩「置き手紙」より)
栞解説:鈴木比佐雄 |
A5判/240頁/上製本 |
定価:2,160円(税込) |
発売:2011年2月19日
【目次】
プロローグ 置き手紙
一章 思い出への旅・ひとり
思い出への旅
その少年
竹 馬
ひとり
ひとりぼっちのウォーキング
ひとりで夕焼けを見ていた
夕暮れ
伝 説
旅の途中
二章 遠くへ行きたい・青春
春の旅
修学旅行
十三歳
特急電車
ハクサンフウロはぼくの恋人
ひとりぼっちになったら海へ
停 泊
青春の小道の十字路
寂しい旅立ち
恋の詩
遠くへ行きたい
三章 独り言のように・教師
独り言のように
静かな会話
ミルキー・ウェイ
李花さん
人形カウンセラー
交響詩「ゆめちゃん」
序曲
第一楽章「歌を贈る」
第二楽章「図書館へ行く人」
第三楽章「大人の扉」
間奏曲
第四楽章「時計」
四章 うどん送別会・心友
中学校長のつぶやき
尊敬している人
あの頃
友 達
三年四組
菅 沼
うどん送別会
五章 シェークスピアの恋・旅
群 舞
レブン・ウスユキソウ
白い岬
晩 夏
サロベツ原生花園
冬の湖
象 潟
大湯滝
希 望
屋久島
シェークスピアの恋
パリの話
六章 白い思い出・相聞
白い思い出
ほんとうの話
ハクサンフウロという少女
ふたりの記念写真
二人だけの同窓会
教え子のおばさん
町内会長
ぼくの同窓会
過去からの手紙
切 符
七章 従妹のマリア・挽歌
白いページ
大根の導師
従妹のマリア
最期の見舞い・危篤
余 韻
父の一周忌
八章 私の終着駅・漂泊
キリン
孤 舟
泣く声
ふるさとは
私の終着駅
優しさをたたむ
一杯の沈黙
人 生
川の流れに腹ばって
シオンへ
エピローグ 追 伸
付録
さようならが言えないよ
作者略歴
【詩篇紹介
置き手紙
みなさん
「思い出」はもう過ぎ去ったことだと
思っていませんか?
それは違います
過ぎ去った時間は決して戻ってはきません
けれども「思い出」は、ふと心の中に
あのときとは違う感慨で
戻ってくるではありませんか
そして、ぼくたちはいつでも
たとえば昼下がりの公園のベンチなどで
ぼんやりと「思い出」の中に入っている自分を
見つけたりするではありませんか
幼かったあの頃から
ぼくは思い出の中の小道を
まるでさすらうように辿って行きました
深い孤独にどんな救いを求めて
ぼくの人生はスタートしたのでしょうか
それからのたくさんの出会いと別れ
思えばなんとたくさんの人たちに
ぼくの心は救われて来たのだろうと思います
そしていつか
年齢を越えて心を溶け合わせた人たちとの
思い出に出会ったとき
ぼくは何を求めて旅立ったかが
なんとなくわかったように思えました
思い出の林の中の木もれ日レストランで
懐かしさに心を躍らせて
楽しかった思い出との再会のひとときの後
取り残されて、ひとりになったとき
冷めて苦くなったカップの底の残り珈琲を飲んで
ふっとため息をして
?杖をつくことなどありますね
テーブルの上では木もれ日の丸い光が
いつのまにか楕円になって
夕暮れへの時の流れを語りながら
そよ風に揺れて教えてくれています
「さあ、これからはもっともっと心揺れた風景と
泣きたいほどにやさしい面影との再会だよ」と
ぼくはもっと思い出の中の
旅を続けようと思います
もしかしたらあのときには気付かなかった
「お母さんという思い」
あの人たちの笑顔に
見逃してしまったかも知れない
「お母さんという思い」
心の小道の曲り角でふっと感じるかも知れない
「お母さんという思い」に
思いかげなく出会えるような気がするのです
それはたとえば寂しく寒い心を温めてくれた
あの温かい一杯のうどんのように
そして
シオンの愛おしい微笑みのように
……行ってきます