杉本知政詩集
『迷い蝶』
この星に季節を巡らす歯車が/少しずつ狂い始めていますよと/風が肩越しに声を掛け通り過ぎて行く/少し憤りの混じった悲しみを背に乗せ/還れない季節を目指し蝶は飛んで行った/詫びに似た気持ちが少し後を追っかけていた
(「迷い蝶」より抜粋)
栞解説:鈴木比佐雄 |
A5判/144頁/ソフトカバー |
定価:2,160円(税込) |
発売:2010年7月10日
【目次】
Ⅰ 迷い蝶
声の無い会話 10
空を裂く言葉のように 14
語りかけて 18
風の囁き 20
見続けて何時も 24
空の里 28
すこしずれた所から 32
落葉の向こうへ 36
瞥 見 40
亜希の実 44
故里の柿の実 48
響きのない跫音 52
白い鳥 56
迷い蝶 60
Ⅱ 海の瞳
海の瞳 故福中都生子氏へ捧ぐ H20・2・9 66
墓掘りニックに 70
島は忘れなかった 72
義兄の夏 76
土橋の記憶
(1)橋の周り 80
(2)兵士の朝 83
(3)峠の航海者たち 87
火の雨降る夜の記憶 92
Ⅲ 明日の旅
声が聴えて 98
二つの月に 102
う そ 106
朝の台所から 108
時には空を飛んで 112
父の仕種で 116
旅 へ 120
コーヒーのある風景 124
昼の夢
その一 ―昼の夢― 126
その二 ―日の丸弁当― 128
その三 ―悲しい因果― 130
西域夢幻 134
明日の旅 138
あとがき 140
略 歴 142
【詩篇を紹介】
迷い蝶
何もすることが無いからではない
断続的な雨手の痛みに耐えるのが辛く
まぎらわすため畑を耕すことにした
今年は殆ど一年の間
首一つ世の中から引っ込め
ひたすら静けさに身体を沈めやり過してきた
時には痛みの合間を縫い
思いの翼を広げたり畳んだりして
未だ知らぬ国を地図の上で旅したり
長く病んでいる友へ届かぬ言葉を呟いたりもした
畑の害虫予防には
寒の間 晒すのが有効だと
うろ覚えの知識をなぞって
スコップでガバッと土塊を起した
おっ 金ぶんと兜虫の蛹が出て来た
そおうと元の土の中へ戻してやる
長い長い時をつなぎ合せ
継ぎ継がれたいのちなのだから
隣の小松菜や白菜の葉陰には
冬を迎えながら
生涯を終えられない青虫や蝶の姿が見える
この星に季節を巡らす歯車が
少しずつ狂い始めていますよと
風が肩越しに声を掛け通り過ぎて行く
少し憤りの混じった悲しみを背に乗せ
還れない季節を目指し蝶は飛んで行った
詫びに似た気持ちが少し後を追っかけていた