水崎野里子詩集
『ゴヤの絵の前で』
ゴヤは流血の惨事を描く/人民に銃を向ける兵士を描く/ゴヤの絵は生きている/今でも そして 生きるだろう/永遠に/この神の不在の世界の中に
(「ゴヤの絵の前で」より)
(「ゴヤの絵の前で」より)
栞解説:佐相憲一 |
A5判/128頁/ソフトカバー |
定価:2,160円(税込) |
発売:2010年5月2日
【目次】
Ⅰ ゴヤの絵の前で
ゴヤの絵の前で
―「一八〇八年五月二日」「一八〇八年五月三日」 8
赤い雪 ―三・一独立運動の犠牲者たちに 11
遠い声・金子文子 14
屠 殺 ―二〇〇七年七月五日南京大虐殺博物館跡にて 20
崔さんと・上海から南京への旅
―二〇〇七年七月五日南京大虐殺博物館跡を探して
・上海から南京へ 24
真珠湾への旅 29
知 覧 32
ハイビスカスの赤い花 35
丘 40
ガジュマルの樹 44
影 47
灯籠流し 50
Ⅱ マレーシアの友人
シンガポールの原爆資料館にて 56
マレーシアの友人
―二〇〇六年世界詩人会議に参加して・於モンゴル 62
カンボジアの地雷博物館 66
アジアの赤いルビー ―二〇〇七年秋ミャンマーのために 71
広島平和記念資料館にて 74
故長崎市長・伊藤一長さんへ 78
従軍慰安婦 キムさんのために ―松井やよりさん追悼 82
老女の涙 ―川端律子さんに 87
ソウルは雨 90
Ⅲ 古い旅行鞄
古い旅行鞄 ―二〇〇五年八月リトル・トーキョーにて 94
浦上天主堂・黒いマリア
―二〇〇七年八月スイスのジュネーブ近郊にて 97
アイルランド・雨 100
ピエタ像 102
晩 鐘 105
ペガサス 108
古い兵隊日誌
―二〇〇九年九月世界詩人会議ハンガリー大会に参加して 112
遠い声 117
あとがき 120
略 歴 122
初出一覧 126
【詩篇を紹介】
ゴヤの絵の前で
―「一八〇八年五月二日」「一八〇八年五月三日」
日本でこの絵を知った
ゴヤによって書かれた
フランス軍によるスペイン市民銃殺の絵
シェイマス・ヒーニーの詩の中で言及されていた
彼は警察によって殺されたアイルランドの暴動を暗示していた
広いプラド美術館の中
ひょいとその絵に出会った心の興奮をしばし抑えきれず
私は呆然と突っ立っていた
ゴヤは描いた
宮廷絵描きと呼ばれた彼
でもゴヤは描いた
スペインのために
激しい憤りと激しい抵抗を
南京虐殺
ユダヤ人虐殺
ヒロシマ ナガサキ
ソンミ村の虐殺
独立を願うアイルランド人民の復活祭の虐殺
スターリンによる反逆者の虐殺
イラクで
アフガンで
ホロコーストはいつの歴史からも去りはしない
人類の汚点
われわれは肉を喰らう 動物に過ぎない
ゴヤは流血の惨事を描く
人民に銃を向ける兵士を描く
ゴヤの絵は生きている
今でも そして 生きるだろう
永遠に
この神の不在の世界の中に
ゴヤ「一八〇八年五月二日」「一八〇八年五月三日」の絵の前に立 つ
二〇〇六年四月二十八日
暑い午後