吉村伊紅美詩集
『夕陽のしずく』
曼珠沙華夕陽のしずくのみほして
ある日とつぜん/ 曼珠沙華が夕陽の一滴をのみこんではじけるとき/
友からの便りを口にしたあの山鳥が戻って来ると/ わたしは待っている
(「夕陽のしずく」より)
ある日とつぜん/ 曼珠沙華が夕陽の一滴をのみこんではじけるとき/
友からの便りを口にしたあの山鳥が戻って来ると/ わたしは待っている
(「夕陽のしずく」より)
栞解説文:鈴木比佐雄 |
A5判/144頁/上製本 |
定価:2,160円(税込) |
発売:2009年9月23日
【目次】
第一章 夕陽のしずく
夕陽のしずく ―ミャンマーの友へ― 10
船 出 14
サンザシ 18
こうもり 22
石 仏 26
マジシャン 30
一角獣 34
カイロウドウケツ 38
サルの眼 42
猫の地図 46
ひばり 48
黒い瞳の人形に贈る花もなく 52
第二章 黒砂糖の香り
黒砂糖の香り 58
人参の花 62
映画館の詩人 66
ハバハバ 70
編み上げ靴 76
父のトラウマ 80
校 章 84
手仕事 88
クチナシの花 92
母への贈り物 96
第三章 川からの贈り物
約束の地 102
愚痴を聞いて 104
紫苑の花 108
彼の化石 110
ブランコ 114
ミミズの弔い 118
長良川のつくし 124
行ったり来たり 128
川からの贈り物 132
あとがき 136
略 歴 142
【詩を紹介】
夕陽のしずく ―ミャンマーの友へ―
曼珠沙華夕陽のしずくのみほして
ある日とつぜん
曼珠沙華が
燃える炎を吹きあげるように咲くとき
軍事政権への抗議は
灼熱の太陽をのみこんだ炎となって
友の住む国の隅々に
広がって行った
抗議デモに加わった僧侶に 若者に
銃弾が炸裂した
大地は若者の血を吸うヒルとなり
空は母の嗚咽を汲みあげ
雨期はいつになく長く続いた
受取人不明で戻ってくるかもしれない手紙を
友に投函するとき
曼珠沙華の赤い華は土の中に消えていた
ピラカンサスの木に潜り込んで
山鳥が赤い実を啄んでいる
今日も胸に浮かぶ風のように舞う友の姿
長い髪を独特の髪型に高く結いあげ
金色の櫛を挿し
ロンジーの裾さばきも軽やかに踊る水鳥の舞
岸辺の花とせせらぎが囁き合うミャンマーの舞踏
友は赤い実を口に含んでほほ笑む
ある日とつぜん
曼珠沙華が夕陽の一滴をのみこんではじけるとき
友からの便りを口にしたあの山鳥が戻って来ると
わたしは待っている