コールサックシリーズ

堀内利美詩集
『笑いの震動』
ウィットのある/「ユーモラスな世界」では/ある人に対しては/硬い無表情の顔にするものが/他の人に対しては/肋骨と脇腹をくすぐる/という現象が生じる
であるから/ユーモアや/ウィットが作り出す/「笑いの震動(mirthquake)」を/よく味わうためには/思考することも必要になる (「笑いの震動」より)
解説文:鈴木比佐雄
A5判/176頁/上製本
定価:2,160円(税込)

解説文はこちら

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発売:2009年9月5日



【目次】


第Ⅰ章 笑いの震動


わが心は 10
こわれたメロディ 12
ほほえみ 16
笑いの震動 20
詩をつくるペンとインク 30
詩人の声 34
狂気の欲望 38
人生の味 42
水に咲く火の花 46
狂 育 50
感情移入 52
心の足あと 54
詩の畑を耕す 56
心の星・心の虹 58
心の旅 60
人生の色彩 62
詩のちから 64
『原爆詩一八一人集』英語版 68
知識からの解放 73
果 物 75
ある日 77
春のことば 79
リズムのしずく 81
夜明けのシンフォニー 83
詩が実る言葉の畑 85



第Ⅱ章 連作詩 光の鈴


 序 詩 90
詩との出会い 91
花と果実 95
リンゴの夢 97
変化する夢 101
変態の意味と価値 104
オオカバマダラ 106
水のかたち 109
ポエトリーの泉 117
創造する手 118
創造する眼 121
ホロコースト 125
魂に応える 128
発光体になる心 132
祈りと愛のかたち 134
生きるちから 136
詩は真珠のように 139
詩人の魂 141
言語資源の開拓 143
魂を詩の頂上へ 145
渚の砂の声 148
21世紀の叡知 150
夜のオルゴール 152
朝のオルゴール 155
ありがとう 158
母の思い出 160
砕けた月 162
  跋 詩 164



感謝のことば 167
著者の著書・翻訳書 170
著者略歴 172




【詩を紹介】


笑いの震動


ラテン語の〝humor〟は
液体を意味していた
〝humors〟は 
人の四体液=
血液・粘液・黒胆汁・黄胆汁を
意味していた

この四体液の配合の具合で
人の体質や気質が定まると
生理学者たちは考えていた

言いかえると 
学者たちは
四体液のうちのひとつが
優勢になると 
身も 心も
不安定になると考えていた

それゆえに 
学者たちは
上機嫌(good humor)を作るためには
四体液のバランスが
必要であると考えていた
四体液のアンバランスは
不機嫌(ill humor)
であると考えていた

このように
人の四体液は
人の身体と精神の状態に
深く関係している
と考えられていた

やがて 
〝humor〟は
〝滑稽さ〟 ・〝陽気さ〟へ向かう
〝気分〟を
意味するようになった

現代の〝〟〝ユーモア〟は
多くの場合
逸話・冗談・地口
当意即妙の応答
機知に富む言葉
リムリック(limerick)
アクロスティック(acrostic)
軽妙洒脱な詩(vers de societe)
川柳・パロディなどに見られる

このような
「ユーモラスな場」で
現代のひとびとは
心にしみこむ〝おかしみ〟を
時には ほんのりと 
時には ふかく感じて
〝たのしさ〟を味わっている

ユーモアと
ウィットは
人の心をやわらかにする・
まどろんでいる心を呼び起こす・
思想に力をくわえる・
知力の機敏さをやしなう

ウィットに富むユーモアの閃光は
陰うつな〝黒い雲〟を消し散らし
快活な雰囲気をつくり出している
そこには
硬い思考では得られない
〝大切なもの〟がある

ユーモアと
ウィットは
一体となって
人のこころに
笑いの光を点す
その光は
メロディのように
こころにひびいて
一日の時間を
しっとりと潤し
身も 心も
爽快にする

ところで
ウィットのある
「ユーモラスな世界」では
  ある人に対しては
  硬い無表情の顔にするものが
  他の人に対しては
  肋骨と脇腹をくすぐる
という現象が生じる
であるから
ユーモアや
ウィットが作り出す
「笑いの震動(mirthquake)」を
よく味わうためには
思考することも必要になる

散文においても
韻文においても
「笑いのパンチ」が
味わえるように
曇り日の憂うつさを
打ち破って
一瞬きらめく
「稲妻の閃光」が
味わえるように
  作者は
  ひそかに
  願っている

   ポエトリーは
   マネーにならない
   マネーは
   ポエトリーにならない  ―Robert Graves
         
このシンプルで
ユーモラスな詩には
現代詩に独創的な展望をあたえた
グレイヴズの人生観と不撓不屈の
精神がほほえましく描かれている

 稲妻に
 打たれて叫ぶ
 フランクリン       ―T ・ H    
  
アルキメデス
ニュートン
フランクリン
このトリオが
満面に笑みを湛えて
「ユリーカ」を
声たからかに歌いながら
狂喜乱舞している光景が
わたしの瞼に浮かんでくる

ユーモアやウィットは
言葉や音楽や絵画で
それぞれの存在価値を
つたえている

楽しさ 柔らかさ 明るさで
人の心の凝りを揉みほぐして
「生きる力」をつよめている
見事なユーモアやウィットは
明るい人生への門を開いてる

  その門の奥に
  機知と陽気の
  デュエットの
  明かりが灯る
  ホームがある

ユーモアと
ウィットは
同じ家に住んでいる―

ユーモアの父は
〝機知〟である
ユーモアの母は
〝陽気〟である

〝機知〟の愛称は 
〝エスプリ〟
〝陽気〟の愛称は
〝メリー〟

生気にみちている
エスプリと
メリーは
常識と
知識の
枷から解放されて
  自由に
  思考し
  想像し
日中の体と心を
はずませている

さらに
エスプリと
メリーは
   古池にとびこむ
   芭蕉のすがたに

  ひげの生えている
  猫たちの恋の姿に

   帰ってきた妻の
   首をたしかめる
   夫と子の視線に

  しくじるたびに
  神様の御恵みを
  こいねがう心に
ほほえみかけながら
やわらかい心のタオルで
一日の汗を拭きとり
夕べの時間を
おだやかにしている

ユーモアを産み
ユーモアを育てている
メリーとエスプリは

睦まじく
ふれあい
とけあい
働きあい

  いかに老いても
  人生は
  生きるに値するように
祈りながら

 ユーモアと
  ウィットが
  まいにち
  まいにち
  命と
  魂を
  ささえる力になるように
祈りながら

明日のひかりを
ほほえみの目でみつめる

それから
メリーと
エスプリは
デュエットに
ハーモニーをきらめかせて
「ユーモアの詩」をうたう―

新鮮なユーモアにふれると
シューマンやドボルザークの
「ユモレスク」にふれると

体とこころにひそんでいる
「光の粒」ぱっとはじけて
ぴちぴちきらきら動き出し

鮮やかな音色のメロディが
からだもこころも弾ませて
生きるたのしさふくらませ
生きるよろこびかがやかす

〝おかしさ〟
〝おもしろさ〟
〝笑い〟は
ユーモアからの
贈りもの

奥山の
小さな泉から
湧き出て
大地のスピリットに
草木のスピリットに
活力をあたえて
大地を
いろどり
うるおしている
水のように

古代の
ラテン語の泉から
湧き出ている
ユーモアの水は

〝機知〟や
〝陽気〟で
たえず
浄化され

ユーモラスな言葉
ユーモラスな音声
ユーモラスな音楽
ユーモラスな絵画で

21世紀の
人の体と心に
活力をあたえ
人生の大地を
いろどり
うるおしている

体と心にしみこむ
ユーモアの水には
人間を健康にする
霊力が宿っている



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