忘れもしない、国民学校四年生の私は、一人で特攻機を見ていた。
(四章 特攻兵士・巡礼 より)
解説文:鈴木比佐雄 |
四六判/256頁/上製本 |
定価:1,542円(税込) |
発売:2009年8月15日
【目次】
一章 大陸・巡礼
秋天の悲しきまでに白き雲 12
二〇三高地さざんか揺らす風 14
乃木坂の思はぬ蟇に逢ひにけり 16
秋風の僅か流るる盧溝橋 18
伏牛の辺より白蝶翔ちにけり 20
西日照る七三一の部隊跡 24
風激しくなる大連の夕焼雲 28
虹立ちぬライオンのはく水の弦 30
しぐるるや寝釈迦の前の一兵卒 34
ひっそりと赤の広場の春の雨 38
鳥追の布残されし刈田かな 42
残照の果てなかりけりうろこ雲 44
遠雷淋しき時に鳴りにけり 46
二章 太平洋諸島・巡礼
拳強く握る真夏の真珠湾 54
バンザイ岬海上に湧く雲の峰 58
夏草やモンテンルパの観世音 60
水牢をのぞき込みたる暑さかな 64
夏の海光るマゼラン上陸地 68
白き蝶舞ふ司令部の廃墟跡 72
炎天覆ふ千のこうもり乱舞して 74
涼しさや椰子の葉先の昼の月 76
三章 東京・広島・長崎・巡礼
飛行雲夏草の果て暮れ残る 82
亡き父の真意に気付く今日の花 84
灯消し正座して聞く花火音 94
蜻蛉や水草揺るるままにゐて 96
逝く夏やB29の滑走路 100
天空に機影消えゆく原爆忌 102
陽を浴びてゐる半眼の雨蛙 106
四章 特攻兵士・巡礼
天炎えて特攻の碑の影深し 114
白雲の映るがわびし夏の川 118
海に向く特攻の碑や寒雀 122
人間魚雷錆びひとひらの山桜 126
逃げ水や霞ケ浦に浮く帆船 130
五章 沖縄・巡礼
海原の沖へ沖へと白き蝶 138
秋の空墓石声なく群がりて 140
激戦の跡紫のすみれ草 142
獅子を誘ふに似て黄水仙 146
とかげの子瞬時石垣に隠れたる 152
炎上の幻に似てももたまひ 154
はまゆうや掌にある星の砂 158
春月と波打ち際を歩みけり 160
流れ星いくつ流るる喜屋武岬 164
小船漕ぐ人新樹光あふれゐて 168
遠雷や死なばなりたき夕暮色 172
六章 戦後・巡礼
藁馬に水を供へる敗戦日 178
一枚を文庫にはさむ渓紅葉 182
消防車幾台通る雪の夜半 184
色なき風白衣の人の会釈して 186
若夏や江田島に寄る波の音 190
甘薯煮て坊ちゃんの清に似たるかな 198
良寛の修行跡とや遅桜 200
背鏡で帯結びゐる終戦日 202
春灯嫁ぐ前夜の寝顔かな 206
うぐいすや太古を語る要石 208
遠峰晴首立てて鳴く鶴の恋 212
遠き日やビルの谷間の夏の月 214
誰が魂と知らねど今朝の白桔梗 216
指軽く結び秋風通しけり 218
解説 鈴木比佐雄 222
あとがき 234
著者略歴 238