黛元男詩集
『地鳴り』
揺れうごく大地から/雪のちかい中越の里にあらわれたあなた/孤独で反骨で苦悩の人であった浅井十三郎よ/村人の心にあなたの姿は見えているか
(「地鳴り」より)
(「地鳴り」より)
栞解説文:鈴木比佐雄 |
A5判/136頁/上製本 |
定価:2,160円(税込) |
発売:2009年6月23日
【目次】
第一章 最後の煙草
最後の煙草 10
家屋解体 14
花火遊び 17
たてがみ 20
昼の金星 24
ある騒乱 27
ぼくの富士 36
壕の中 40
空港にて 44
方 舟 46
梨 園 51
ガジュマルの木 54
針の山 58
第二章 地鳴り
地鳴り―浅井十三郎と村人に 64
雪の嘆き 68
松阪牛 71
水銀 75
水銀 80
飢えるクマ 85
イカとぼく 88
萓生城址 91
第三章 介護日誌
青い崖 98
満 月 100
境界型糖尿症候群 103
魔 物 108
海の女 111
リハビリテーション 114
介護日誌より 116
介護日誌より 119
介護日誌より 122
介護日誌より 124
介護日誌より 127
あとがき 132
略 歴 134
【詩を紹介】
地鳴り
越後の山麓から
ひとりの詩人がよみがえる
火を噴いて屹立している浅井十三郎
九尺の雪が軒下をうずめる豪雪地帯に住み
電線をまたいで歩く村の道
積雪を割って苗代をつくり
ヤロビ農法の種子をまきつける
四、五反の田畑の土に心血を注いだ
困窮と飢餓
の重い火焔を背負いつつ
詩の鬼となった
詩誌「詩と詩人」と詩書の刊行
が どれほどかれの家計を圧迫したか
着物がなくなり畳がなくなる負債の日々
どしておらのうちはフトンが無いのかという子供
だが 五〇年代
その雑誌に
リアリズム詩人の若い俊英たちが集って書き
地方から反乱し
芸術の野望を燃えたたせた
五六年六月 一一一号のうら表紙
黄ばんだ地に刷られた六号活字の発行所が
ぼくの目をうばう
新潟県北魚沼郡広神村並柳 詩と詩人社
あ 浅井十三郎の村は
震度7の川口町から15キロ
全村民が避難した山古志村から10キロ
まさに震源地ではないか
山が動いた
山が消えた
棚田がくずれ落ちた
言葉を失った村人が喉から声をしぼり出す
自転車から落ちて頭部を強打する。田の畦がくずれていたのを修理したあと寝につくが、出血が止まらず車で病院にかけつける。入院。頭を抉るような痛みとおのれの死の予感の中、病状と心象を記録した一〇六行の詩「脳蜘蛛膜下出血」を書き残す。十月二十四日永眠する。四十七歳であった。
揺れうごく大地から
雪のちかい中越の里にあらわれたあなた
孤独で反骨で苦悩の人であった浅井十三郎よ
村人の心にあなたの姿は見えているか
ようやく自分の家に戻り
壁にすがって泣きだす老婆に余震がくる
心配だねえ
心配したって どうしようもないけれどもねえ
地鳴りがひびき
また余震がくる。
参考資料=錦米次郎・浅井十三郎ノート(農民文学)、 「詩と詩人」106~111号