コールサックシリーズ

長津功三良詩集
『飛ぶ』
人類史のガンとしての核被爆追求にいのちを張ってたたかいつづけると、このようにも優しく、思い遣りふかく、ときに戦闘的に、自己の運命すら純客観化して、人間の真実を描ききることができるのだ   ―吉川仁 (帯文より)
栞解説:福谷昭ニ
A5判/144頁/ソフトカバー
定価:2,160円(税込)

解説文はこちら

飛ぶ表1

発売:2009年6月15日



【目次】


雷 雨 10
初 秋 14
飛 ぶ 18
息子へ 24
生きること 30
田舎の愉しみは 34
女房を殺す 38
今日もまた無事の一日 42
酒仲間 46
呑 む 50
極楽浄土 54
墓地道 58



山代飢饉 64
屋号のことなど 72
新ちゃんちの観音さん 76
熊が出た 82
鴉と葬式 86
八幡宮祭礼の日 90
天徳寺龍が淵 94
猿猴の初恋 98
錦川赤瀬物語 102
骨を拾う(ながとかずおへ) 106
夢 葬(村上泰三へ) 110
レクイエム(大木堅二君へ捧ぐ) 114
またこんな話を聞きました 116
一人芝居 120
夕 陽 121
雪降る 122
参 道 125
寒い夜に 126
虚 春 130
白の匂い 132
三月・レクイエム 136
昏い夜の扉の向こう側 138



著者略歴 142


 

【詩を紹介】


飛ぶ


仲間内で 呑む時に いう
おれは 飛ぶぞ
どうせ 誰も 面倒みちゃぁくれんけぇ
いずれ
飛ぶぞ
呆けて わからんようになる前に
自分で 始末ぅつけにゃぁ いけまぁ
生見にゃぁ 人造湖が 三つあるけぇねゃ
弥栄湖と 生見川湖 そして小瀬川湖
呆ける前に
どれかの 橋の上から
飛ぶぞ

  以前から 福祉の仕事に関係して
   老母を 見送ってからも
   そのような施設に 出入りすることが 多い
   そこには
   寝たっきりで動けない人 呆けてうろうろする人 などなど
   それぞれの人生を抱えて
   さまざまな人たちが いる
   重病人は 病院送りになるが
   介護度五であっても 面倒みられる限り 介護している

  病院は 病院で
   点滴や さまざまな延命措置で
   殆ど 人間として 意識の無いもの 自覚の無いものも
   生かせて いる
   寝ているのは 年寄りばかりである
   無残なものだ

同伴者の 十三回忌も
お袋の 一周忌も 終えた
一人っきりの 息子ぁ
いい年こいて まだ 結婚しちょらん
したとしても 世話になるわけにゃぁ いくまぁ
どぉせ あいつぁ
東京生まれの 東京育ち
田舎にゃぁ 縁が薄うて 帰っちゃぁ来まぁ
と すりゃぁ いずれ
自分で 始末ぅつけにゃぁ いけまぁ

呆けは じぶんのとこらぁ
避けて通っちょくれるつもりじゃぁいるが
生物学的な 年齢は
特別扱いしちょくれそうもない
もぉちったぁ 元気でいたいが
幾らか 動けて わかっちょるうちに
やりたいもんだ

なに どぉやるんかって?
そりゃぁ おまえさぁ
わきぁないいや
晩げに タクシーじ
橋の袂の小料理屋まで 送っちもろうち
ひとりで
最期の晩餐や
ゆっくりたっぷり呑んじ 勘定払ろぉたら
どおせ あそこらぁ 普段ろくに人も通っちゃぁおらんけぇ
タクシー呼ぶ振りしち 外い出ち
橋の上から
飛びゃぁええ

そお
おりゃぁ 飛ぶぞ
飛ぶ

*以後、使用の方言は山口県東北部・広島との県境 山代地方のものです。



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