栞解説文:鈴木比佐雄 |
A5判/176頁/上製本 |
定価:2,160円(税込) |
発売:2008年11月23日
【目次】
第Ⅰ章 再訪
再訪 10
ハルピンから南へ二〇キロ―旧満州国の旅 14
枕木を踏んで 18
タニシ 22
野草を摘む 26
夏 欅のホール前にて 30
サイパン島の旅 ―鉄カブト 34
美味しいもの 38
結び目 41
食堂のおばちゃん 45
へいわをつくろう 49
碑前祭にて 53
あさがおの種が 57
浦じまい 60
川津漁港にて 64
憲法の 68
第Ⅱ章 十三夜さま
十三夜さま 72
一人芝居 75
草津にて 79
カラス 83
姉と妹 87
家族 90
おまえ 93
母 97
おにぎり 101
座布団 105
ゆめ 109
樽職人 113
骨と 116
宿替え 120
転居 123
第Ⅲ章 電車道
一本の花を 130
らしさの定義 133
倉庫から 136
ふるさと 139
失業 142
彼の場合 146
あの日 以来 150
凍花 154
終演 158
電車道 161
あとがき 167
略歴 172
【詩を紹介】
電車道
鉄道職場で働くあなただから
一直線のレールを描くべきだ
なまめかしい鉄のカーブを
疾うの昔 逝ってしまった詩人の言葉が
記憶の底から溶け出し まとわりついている
電車の最前列で外を見ていると
雨上がりの朝はレールがまぶしい
コンクリートの枕木も
バラスと呼ばれる砕石も
鉄路に働く男たちの汗と同じに光っている
ブザーよし。出発進行。発車。
運転席から声が漏れ
一〇両連結の車両がすべりだした
景色を飛ばし
もがり笛をひびかせ
蒼い空を映した直線レールは
わたしの体内をいっきに突き抜ける
前方にS字カーブが見える
あれは川面を泳ぐ一匹のへびだ
レールは背骨
コンクリート枕木は肋骨
無数の砕石は ひんやりしたウロコ
くねくねとした骨格で線路は生きている
そう思った瞬間
車両が蛇行しながらすれ違って行った
鉄路を設計した男たちは
横たわる若い女の腰をイメージしながら
製図にカーブを描いたのだろうか
レールを敷いた男たちも
鉄との闘いだからこそ
胸の膨らみを労わるように
優しくボルトを締めたに違いない
疾うの昔に逝ってしまった詩人の言葉は
間接的な愛の告白だったのだと
本卦還りの今ごろになって理解した
夜の電車道に立ち
せめて女らしく両手で大きな輪を作り
星空にサインを送ろう