壷阪輝代詩集
『探り箸』
娘は母の箸で五味を育まれる。それゆえ際の時までに、母は娘の箸で絆を食味して旅立ちたいと願う。この日本の美しい伝承を、壷阪輝代は思い丈、しとやかに紡ぎだしている。
(帯文:山本十四尾)
栞解説文:鈴木比佐雄 |
A5判/128頁/上製本 |
定価:2,160円(税込) |
発売:2008年8月5日
【目次】
◆第Ⅰ章 探り箸
探り箸/迷い箸/指し箸/空箸/すかし箸/なみだ箸/落とし箸/箸なまり
◆第Ⅱ章 ふるさとの背中
ふるさとの背中/母の皿/ほどかれる/鶴/うしろ姿/土笛/すべり台/ねがい石/鬼の行方は/一輪車/約束/影 踏みかさなる/その香りを
◆第Ⅲ章 菰巻き
菰巻き/おすそわけ/みどりの訪問者/おかげさまで/居留守/森のレクイエム/左胸の神様/もうひとつの道/旅をしてきた水/水の庭/傷口/忘れがたみ/沙羅よ沙羅/流れ星の時間/細胞/縁があったら
◆あとがき
【詩を紹介】
『探り箸』
さぐらなくても
小さな器のなか
何から食べようと同じこと
それでも選り好みするいじましさ
四人の子供の箸が
いっせいに伸びた
家族の真ん中に盛られた揚げ物
あとのわずかを
口に入れていた父と母
あの日のわたしは
どこへ行った
まっすぐに
目的を掴んでいた眼の輝きは
人ひとり
生きる場所をさぐったとき
他人の器にまどわされ
果てが見えたとき
そして
職を辞したとき
そのあいだも
離さずにいたこの箸
これからも
明日をさぐりつづけるための箸
――探り箸