もし画家に絵を描きつづける理由があるなら
それは、自分たちの色彩を見つけるためではないか
その色でしかとらえることのできない物語が
人生には確かにある
(詩「点描画」より)
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栞解説:佐相憲一 |
A5判/160頁/ソフトカバー ISBN978-4-86435-095-2 C1092 ¥2000E |
定価:2,160円(税込) |
発売:2013年4月1日
【目次】
第一章 愛の美術館
ぽろん ぽろん
原始美術
点描画
消失点
母子像
父子像
障子絵
スイセン
覚 悟
リボン
リズム
徹夜帰り
知っている
指先の言葉
第二章 いのちの筆
小さな包み
休日の終電車
生
水 脈 ―ひめゆり平和祈念資料館―
ミッションビーチ
少 年
飼い犬が見つめていた
よすが
余 白
にわか
こころ
水の中
第三章 回想の風景
探 偵
屑 屋
慶 応
横浜駅
墨
母
声
蓮の花
舟
効 能
あとがき
略歴
詩篇
「点描画」
あなたはマゼンタ、私はビリジュアン
キレイな絵を描きたければ混ぜてはいけないのね
打ち捨てられて久しい僕の画材を
押入れの奥から引っ張り出し
干からびた絵具を並べながら
身重の妻が言った
わたしも絵が描きたくなりました
ひとはなぜ、絵を描くのだろう
〈人生の余白をうめたいから〉
〈愛するものと生きた物語を残すため〉
〈愛するものと生きた物語を残すため〉
時間は容赦なく過ぎ
画家は創意をもてあましていく
世の中は、未完成な絵画であふれている
どうして家族は
いつのまにか補色の関係になってしまうのでしょう
絵具をパレットに絞り出しながら妻はつぶやく
補い合う色とはうまく言ったもので
近くでも、遠くでもなく
互いの距離をはかりながら
照らし合う生き方
寄り添いながらも依存し合わない心地よい緊張
そうしてえられる均衡こそが
絵を完成する条件になるのかもしれない
妻の声に、諦めと安らぎが入り混じっていたように聞こえた
もし画家に絵を描きつづける理由があるなら
それは、自分たちの色彩を見つけるためではないか
その色でしかとらえることのできない物語が
人生には確かにある
自分の色で世界を染め上げるのが、画家なのだ
だから、妻と僕は
けっしてキレイな絵を描くつもりはないけれど
それぞれの色を
直接、たんねんに画布に置いていく
近すぎても離れすぎてもいけない
照応する位置を試行錯誤しながら
そのうち、二人の色に新たな色も加わって
ほどよく網膜で混ざりあい
見る人の心で結像しながら
僕たちが思い描く世界が現れる
そうなることを夢見て
いつ完成するかは知らないけれど
描きつづけるのだ
家族という点描画を