コールサックシリーズ

佐々木賢二・評論集
『宮澤賢治の五輪峠―文語詩稿五十篇を読み解く

3・11以降、自然との共生を謳った宮澤賢治が注目されています。 そんな賢治の作品の中でも分かりづらいとされてきた「文語詩」。 本書は小児科クリニックの佐々木先生が、より多くの読者に賢治の心髄に触れてもらえるよう、工夫を重ねながら執筆しました。現代では馴染みの薄い言葉には語彙を表記し、全体の口語訳も添えているので、研究者だけでなく学生や社会人の方でも賢治の世界に入っていくことができます。



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解説:鈴木比佐雄
四六判/560頁/上製本 ISBN978-4-86435-091-4 C1095 ¥2000E
定価:2,160円(税込)

佐々木賢二・評論集『宮澤賢治の五輪峠―文語詩稿五十篇を読み解く』

発売:2012年12月25日



【目次】

序 文   佐々木  賢二  

Ⅰ 地輪峠 ―夢み悩みし 

1 病床で聞いた高麗太鼓の音―「いたつきてゆめみなやみし」 
2 愛された北上台地の神々―「水と濃きなだれの風や」 
3 権威に対する反骨精神―「雪うづまきて日は温き」 
4 見上げる生命力の源―「温く妊みて黒雲の」 
5 寄り添う農民たち―「暁」
6 暗示される天の存在―「上流」 
7 命を燃やした石灰肥料―「打身の床をいできたり」 
8 立ち戻る農学校校舎―「氷雨虹すれば」
9 真理を拒否した人びと―「砲兵観測隊」 
10 甦る凶作の光景―「盆地に白く霧よどみ」 

Ⅱ 火輪峠 ―たそがれ思量惑く

11 響き渡る法華経如来寿量品―「たそがれ思量惑くして」 
12 交感する外山の光景―「悍馬[一]」 
13 描写される諸法実相―「そのときに酒代つくると」 
14 揺れ動く修羅と希望―「月の鉛の雲さびに」
15 種山ヶ原の子供達―「こらはみな手を引き交へて」 
16 立ち去った実験室―「翔けりゆく冬のフェノール」 
17 エールを送った下級技術官吏―「退職技手」 
18 汲み上げた山村体験―「月のほのほをかたむけて」 
19 刻まれている四聖諦の教え―「萌黄いろなるその頸を」

Ⅲ 水輪峠 ―「流氷」

20 問い続けるほんたうの幸福―「氷柱かがやく窓のべに」 
21 記された文語詩の滅諦・道諦―「来賓」 
22 脳裏に現れた多宝塔―「五輪峠」 
23 魅了される清楚な魂―「流氷」 
24 透かし見る銀河意識―夜をま青き藺むしろに 
25 世界の本当の姿―「あかつき眠るみどりごを」 
26 世界の本質を喚起させる青―「きみにならびて野にたてば」 
27 受け入れる究極の世界―「初七日」 
28 冷徹な視線と遺伝子の予言―「林の中の柴小屋に」 
29 耳澄ます情景描写―「水霜繁く霧たちて」 
30 凝視し続ける屠者―「あな雪か 屠者のひとりは」 

Ⅳ 風輪峠 ―「風桜」

31 豊富な知識を駆使した花壇作り―「著者」 
32 支援していた労農党―「ほのあかり秋のあぎとは」 
33 民衆信仰の優しさ―「毘沙門の堂は古びて」 
34 土性調査と酒席の神舞―「雪の宿」 
35 末期の眼が見るイギリス海岸―川しろじろとまじはりて
36 修羅の意識と結びつく桜花―「風桜」
37 関わったダリア品評会―「萎花」 
38 敵対した秘事念仏の隣人―「秘事念仏の大師匠」 
39 精神を癒した麻を打つ音―「麻打」 
40 修羅の向こうに見た真実―「驟雨」 

Ⅴ 空輪峠 ―吹雪かゞやくなかにして

41 懊悩する魂が求める光―「血のいろにゆがめる月は」
42 否定する他人真似のインテリ―「車中[一]」 
43 村民や森羅万象に開かれる魂―「村道」 
44 凝視された寒中のインテリたち―「さき立つ名誉村長は」 
45 賢治の下宿していた寺の朝―「僧の妻面膨れたる」 
46 種山ヶ山の軍馬飼育の人びと―「玉蜀黍を播きやめ環にならべ」 
47 思い描かれる古代の北上台地―「うからもて台地の雪に」 
48 愛する人へよりよき生への願い―「残丘の雪の上に」 
49 痛みを癒す薬草―「民間薬」 
50 外から見ているもう一人の自分―「吹雪かゞやくなかにして」 

解説  賢治の〈文語詩化〉を解き明かす人  鈴木 比佐雄  

参考文献  
あとがき   佐々木 賢二  

略 歴  

宮澤賢治の文語詩を論じる時に問題になるのはやはり、賢治がその晩年に妹クニにむかって語ったという「なっても(何もかも)駄目でも、これがあるもや」との言葉です(「校本宮沢賢治全集5 月報・編集室から」筑摩書房、昭和四十九年六月)。「他の作品が駄目になっても文語詩があればよい」、とのこの言葉は、最晩年の賢治が文語詩に込めた最大級のメッセージと思われますが、その真意は、他の作品を重要視しないのではなく、自分の人生や考えの根源が文語詩の中にはめ込まれているので、文語詩が分かれば自分とは何者かが分かる、との意味だったのではないかと思われます。そこで文語詩を通して賢治が述べたかったことを探り賢治の人生と向き合うことは、宮澤賢治とは何なのかとの謎に、少しでも近づく手がかりとなるのではないかと思われます。  (「序文」より)

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