コールサックシリーズ

『岸本嘉名男詩選集一三〇篇』

どうして穂谷が私を惹きつけるのか/九月中旬 小雨まじりの午後/再び訪れてみると/屋根より高い傾斜の小径が/見晴らしの良い畦道へとつづく/黄金色の稲穂が重そうに滴を垂れ/背後の栗イガもたわわにしなり/丘にはミカンの青い実と/まだ色づかない柿の実とがぶら下がる/たしかにここには秋がある(詩「穂谷再訪」より)

解説文:佐相憲一、鈴木比佐雄
四六判/176頁/上製本 ISBN978-4-86435-088-4 C1092 ¥1500E
定価:1,620円(税込)

解説文はこちら

岸本嘉名男詩選集一三〇篇

発売:2012年12月7日



【目次】

第一詩集『碧空』 (二〇〇〇年刊)より

夢の穂谷へ 
指 摘  
春 望  
夏のひととき  
雷雨でなく驟雨  
秋たおやかに 
オレンジ・ライン  
待ちわびながら  
穂谷再訪  
無心にて候う  
悠然として 
唯 有難う  
清 純  
初冬の朝に  
大 寒 
金剛山に語る日よ 
碧 空 

第二詩集『釣り橋ゆらり』 (二〇〇三年刊)より

旅 人  
朝の釧路港 
ホエール・ウォッチング 
東北ひとり旅  
葉山の海辺  
鎌倉湾  
再 会  
雨の白樺湖  
福井の旅 
妙なるしらべと  
釣り橋ゆらり  
還暦同窓会  
わがルーツ  
泰然自若 
灯籠流し 
風におう湖畔  
湧くがおもい  
鎮魂の浜辺 
平和の丘で  

第三詩集『四季巡る』 (二〇〇四年刊)より

四季巡る  
春の予感  
定年退職日  
再出発の春  
さくら 
雨 桜  
二科展へ  
黒と赤の夕景図  
ブルガリア弦楽オーケストラ  
無心に歩いて 
光彩暮色 
夕闇断想  
LOVINGKINDNESS 
夢の殿堂ついに成る  
映画「ホタル」  
生きる  
亀岡・湯の花温泉 

第四詩集『めぐり合い』 (二〇〇五年刊)より

めぐり合い  
反転のイメージ 
アイルランド行  
知床序曲  
杜の都  
夕日思慕  
友光亭  
ギャラリーの辺りで  
わが歌の発祥地  
凧への仮説 
わがふる里ぞ 
自然と語る 
無為空間 
川下鎮魂  
春がまた  
宇 宙  
ポン太 逝く  
決 別  
雪溶けて 
和みはいずこへ  

第五詩集『さすらい』 (二〇〇六年刊)より

さすらい 
朝の体操  
自分のせいなのに 
オアシス  
浜辺にて  
眩 惑  
わが残照  
白い想念  
確たる道へ  
心よひびけ  

第六詩集『見つめつつ』 (二〇〇七年刊)より

安威川  
春めく頃 
送別会  
五月の窓辺 
生命はじけて 
中秋の夜明け 
秋日偶感 
初冬の朝に 
ある日の出  
落 日  
都会暮色  
幻の生  
ヤング・ドーター
桂あやめ独演会から  
近代化  
五十路  
我を見つめつつ 

第七詩集『早春の詩風』 (二〇〇八年刊)より

早 春  
川生きて  
沖縄・夢追い旅 
天草へ  
雨のしまなみ海道  
水軍城  
四万十川へ  
京都・白川辺を  
雪吊り  
能登半島  
補遺 「能登半島沖地震」 
夢千代の里にて  
悠久の北京 
カナダ行  
咳づく正月  

初期詩集『彩雲』 (一九九七年刊)より

白 雲  
娼 婦  
孤 塁  
里帰り  
ビル火災  
嗚 咽  
私の冬景色  

未収録詩篇より

春の尾瀬  
老いてなお  
さらに次へと 
庭木切り落とし顚末記 

歌詞と楽譜

大阪府立摂津高等学校・学園歌  
摂津音頭 
沖縄の女  
さすらいレイン・アラウンド神戸  

詩 論  

「詩の音律」考 
朔太郎と猫  
朔太郎と象徴  

解 説

摂津のまちの好人物は文学教師、詩人である 佐相 憲一   
穂谷の山里を通して世界を見つめる人 鈴木 比佐雄 

略 歴  


詩篇を紹介

「穂谷再訪」

どうして穂谷が私を惹きつけるのか
九月中旬 小雨まじりの午後
再び訪れてみると
屋根より高い傾斜の小径が
見晴らしの良い畦道へとつづく
黄金色の稲穂が重そうに滴を垂れ
背後の栗イガもたわわにしなり
丘にはミカンの青い実と
まだ色づかない柿の実とがぶら下がる
たしかにここには秋がある
竹林をわけ入ると
突然パーンと音がして
雀おどしの空砲と分かったが
こわごわ歩む
雨はなおしとしと
奥まった薄暗い竹やぶ道を行く
不気味さに一瞬たじろぐが
このほの暗さの感触こそ
穂谷の神髄とでもいうべきか
やがて明るい場所に出て一呼吸
小太りの黄色いヒマワリが
こちらを見て笑っている

雨やんで
ひき返しの竹やぶにも慣れ
あとは「ほたに小径」を気楽に一巡
人の気配こそずうっとしないが
空気は平らかで
まるでタイムスリップした
おとぎの山里を彷徨した心地だった

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