核の雨/〈放射能雨〉を/降らせた奴の 国籍が/「アメリカではなかった」と だれが言えるか。//国境のない水の争奪 いのちの汚染/もし……/「雨は 日本語で降ってくるの」/と/パブロ・ネルーダに聞かれたとしたら、/どうするのだろう ?/わたしの ミズ は……(詩「水の国籍」より)
栞解説:鈴木比佐雄 |
A5判/192頁/上製本 ISBN978-4-86435-077-8 C1092 ¥2000E |
定価:2,160円(税込) |
発売:2012年11月28日
【目次】
序詩 水の皮
第一章 死の雲、水の国籍
木洩れ日
外 臓
青い夕焼け
死の雲
水の国籍
雲の上の町 ゆすはら
「泣キ龍」伝説
除 染
クリーンな朝の台所
薔薇の交接
化けもの野郎に サヨウナラ
孤島のセオリー
第二章 首輪の記憶
首輪の記憶
「岡山空襲」の記憶から
二〇一〇年 夏の記憶
黒い国民服
台所の戦争
ホタルイカの自決
蜘蛛の闘い
闇の現
第三章 日の音
日の音
〈静〉とは 青く争うこと
サラム(人)
人、じゃないですか
芋虫の足
癌・告知
『糺の森』 (私信)
―追悼―多田聡さんへ
あとがき
略歴
詩篇
「水の国籍」
「雨は 何語で降ってくるの」
と
パブロ・ネルーダは うたうのだったが、
河は
何語で流れていたのか。
水は ?
いくつもの国境に仕切られて
―上流から 下流へ―
知らないコトバを繋いで流れる
(知らないコトバに繋がれて 飲まれる)
〈国際河川〉というもの 複雑なもの。
流動していく 水の国籍
日本は島国なのだから
(どの河だって
〈国有河川〉ばっかりだから
河は カワ
水は ミズ
日本語だけで 流れていって
日本語だけで
飲まれてきた と思っていた。)
日本国籍の
いのちにも似る液体のもの 不確かに透明なもの
コトバも 思想も
液体だろうか―わたしのなかで―
軍事同盟なんかではなくて
―あの国とこの国とを結ぶ―
安全保障条約なのだから
(憲法の平和条項には抵触しない)
と
いい含められ 飲みつづけてきたもの。
たしかに
この国の針葉樹林
(わけてもマツを枯らしたものたちは)
中国に国籍をもつ
「空中鬼」だったかも知れないけれど―
核の雨
〈放射能雨〉を
降らせた奴の 国籍が
「アメリカではなかった」と だれが言えるか。
国境のない水の争奪 いのちの汚染
もし……
「雨は 日本語で降ってくるの」
と
パブロ・ネルーダに聞かれたとしたら、
どうするのだろう ?
わたしの ミズ は……
ひょっとして
この国に降る液体は
中国からきた 酸性雨 ?
「空中鬼」なのかも知れないのだから―
ミネラルなんか なくっても
「ミネラル・ウォーター」と書かれてしまった
ペットボトルのカタカナ語。
(もしかして
冷蔵庫の
冷凍室を冷やしているもの ?)
CRYSTAL GEYSER アメリカのノミモノ
「雨は 何語で降ってくるの」
と
パブロ・ネルーダは問いつづける。
ほんとうに
雨は 何語で降るのでしょうね ?
ほんとうに ほんとうに
この国の
水は
何語で流れているのでしょう ?
〈国有河川〉という
― 国境なんか なくて ―
ニ ホ ン ゴ で 流れつづける カ ワ なのに―
*1 酸性雨に付された 中国語の命名。
*2 間欠泉 (湯沸かし器の意もある)