コールサックシリーズ

玉造修詩集
『高校教師』

どれだけ支えてくれただろう
どれだけ頼りにしただろう
どれだけ聞いてもらっただろう
どれだけ大切にしただろう

私はひっそりと
〈ありがとう〉
(詩「茨城高教組」より)

栞解説:佐相憲一
A5判/112頁/上製本 ISBN978-4-86435-073-0 C1092 ¥2000E
定価:2,160円(税込)

解説文はこちら

玉造修詩集『高校教師』

発売:2012年7月27日



【目次】

第一章  高校教師 

岩井高校の夏服 
下宿の風呂場 
みかんを一緒に 
卒 業            
ズボンと娘さんと息子さん 
パーマ屋さんへ 
ギター 
学校火災 
組合活動ばかりしていると 
茨城高教組 
化学教室で 

第二章  共に社会に生きる人々 

海底へ 
頼もしい青年が 
研究者
同業者
弁護士の青春時代         
布川事件再審無罪の日
追 憶          
青 春  
東海村          

第三章  ありがとう 

君の家               
浮島へ 
方程式はない 
小野の逢善寺 
後楽園             
竹提灯         
にしんそば 
函館にて 
花嫁の父 
京都で 
それだけです 
暮れのサントリーホール

あとがき 
略歴 



詩篇

「海底へ」       

物の重さがわかってからの
人類の歩みを高校生と共に
教えられたり
不遜にも教えたり

一九七四年春
日本全国の海岸線から採って来た
ほんの少しずつの砂粒のある地質標本室
その隣の化学教室で
第一歩を踏み出した

物質の世界へ青少年を導いて
生活している自分
物質の歴史が平坦な道のりでなかったことは
知っているつもりだった
思い上がっていた

原子力は必要性があると出世コースへ進む先輩に
違う道を歩こうと言えなかった

恋人を炎の中から救おうとして
彼は焼け死んだ
結婚もしていない四十半ばの齢で
物質のもつエネルギーを知るため
夏休みのたびドイツへ出掛けていた
教えて欲しかった本当のこと

今 三陸の海で弓形状に日本列島を
支える岩盤が海底で激しく動いた
地球のもつエネルギーを賢治のように
あせらず あなどらず


「岩井高校の夏服」

一九七四年
教員一年目

六月一日
女生徒は水色の夏服

世界知らずが教壇に立って
化学を教えている

中間考査の問題作成
教科書 指導書 問題集 参考書

やさしい問題でいいんじゃないか

彼女たちは青い空
この制服を身につけて

それなのに
この制服を人に見られるのが嫌だと言った彼女
別の高校へ進みたかった

そんなことどうだっていいんだ
岩高の
すばらしい仲間が君を待っている


「茨城高教組」

今日は最後の大会

どれだけ支えてくれただろう
どれだけ頼りにしただろう
どれだけ聞いてもらっただろう
どれだけ大切にしただろう

先輩
同輩
後輩

私はその一員となり得た

江戸崎から水戸へ夜の往復
何でもなかった

高校生のつどいや
教育のつどいの準備
県教委との交渉

生徒が人間らしく成長してほしい
生徒と教師の人権を守ること

先輩たちの最後は堂々としていた

私はひっそりと
〈ありがとう〉

一人ぼっちだった
仲間にしてくれた
三十八年間

仲間がいるからこそ生きられる

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