「コールサック」日本・韓国・アジア・世界の詩人

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上野 都 (うえの みやこ)


<経歴>


1947年、東京生まれ、大阪市枚方市在住。

詩集『フェアリイ リングス』『此処に』『海をつなぐ潮』『地を巡るもの』


<詩作品>

行き方 知れずとも



二万人 五万人 十万人 十五万人…



どこですか



どこにいますか



赤に 青に 緑に 黄色に
これから誰が
どの色であなたを探し
どの地図であなたを取り戻すのだろう
あなたの居るところから…



探しています



居てください



そこに
あなたが居たところに



知っていてください
私が忘れないところが
あなたに近いことを



あなたを見つけるのは
私には無理かもしれない
私がいなくなったあとも



それでも
「がれき」と呼ばれる六道の
記憶の海と山を越え
あなたのままに 
どうぞ あなたが居たところへ



そこへ



そこへ 



居てください。


 

  二〇一一年八月十五日





地を巡るもの


                    

空と地のあわいを早春の風がわたる 
うすうすと霧をはらみ 東へ


どこか赤い土の色を乗せて
ゆっくりと川面を流れる残雪は
ここへ届くまで 
山へ積み 
里へ積み 
ひとしく千万の暮らしの屋根に積み
いま 
みずからを追うように
大河に溶けて西の海へ 


柄の長い匙で掬うかたちに
古い都を北から南へ下り
また 北へ上る河
それは 
人の世が裂くまえからの
天と地のかたち
もう遥かな昔から 
出あうところは一つ と
 

この春にも 
ふたつの川の溶け合う坡州
冷え冷えと
靄のかなたに歌う気配も見せず
同じ岸辺をはさみ 
別々の名で
臨津江と漢江
同じ季節を
ほんの手の届く近さに結びながら


木を植えた者はいたが
森は燃えつき
子を産んだ女もいたが
男はみな兵士になった
この百年にも 
大地は幾度となく焼け 
撃ちつくされ
ふたつの河の水は
血で染まりつづけ―


今 
この高みに立つ人の
なんという影の濃さ
思いがけない早い春に胸をえぐられ
時の重さに肩を落とし
血を滾らせて無言に沈む
深い河をまえに 
黙して天を仰ぐ人の言霊は
冬ごとに高く積み 
はかなく溶け
そのたびに どれほどの幻が
この河を渡ったろうか 


見届けようにも人の命には限りがあり
歌おうにも あまりに冬は長い
だが言の葉に育った種を
渡りあう風に乗せ
ぱあっと目くらましのように蒔けば
赤茶けた地ばかりを這う双眼鏡を
いつか 
緑の芽が覆うだろうか
花の群れが
胸の階級章を食い尽くす日が
来るだろうか


種を蒔く手が道を踏むなら
実を刈る手が 
かならず橋を架けよう


地を巡るものあってこそ 
人は出会い歌う
固く凍った氷を穿つ影の深さを抱き 
いつか その아리랑を私も歌う


来る日のために 私の手よ 
銃剣をおろせ
銃剣をおろさせよ
ふたつの河に
溶けあう縁あればこそ。


*アリラン・朝鮮の民謡





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