芳賀 稔幸 (はが としゆき)
<詩作品>
広野原まで
鉄道が再開された日
ひろのはらからは
酸化したレールが夏草の茂みに真っ赤になって消えていた
誰も住んでないはずの警戒区域の中で
現職の東電社員二名が町議会選で上位当選、再選をなした
〈あっ、余震だ
トンネルを走り抜けるしかない
トンネルの出口は入口になった
ふたたび暗闇を走り抜けるトンネルになった
冷温停止させてもいまだ廃炉になる見込みなぞない
さらに北上して行かなければならないはずの唱歌ひろのはら
ぐにゃぐにゃのたうつレールの上に赤い信号が点灯していただけだ
津波は常磐線を横断していた
遺体の捜索は再開されてはいない
軌条の築堤に普通車や冷蔵庫、枯枝までが未だ引っかかったままだ
警戒区域の境界線では
若い警備員が防護服も着ないまま健気に警備に就いていた
近くのコンビニも営業を始めていた
きっと本社側の面子ってもんかも知れないが―
〈また、大きな余震だ
頭上の高圧架線がズレ落ちそうだ―
レールに脱ぎ捨てられた防護服
〈なんでこんな目に遭わされなければならないんだ
走り抜けるしかない
どこまでもトンネルを走り抜けるしか―
2
あっと言う間だ
めっぽう線量が高い
第一原発までは目と鼻の先
ここはもう入ってはならないところだ
余りに悲し過ぎるなれのはてだ
置き去られているレールは
度重なる余震のふるいに掛けられ
それでも腐心の念だけは真っ直ぐを保とうとしているが―
忘れるな、福島原発は第一だけではない
いまだ廃炉が見込まれてはいない
若しも第二が冷温停止を成せなかったならば―
いずれにしてもヨウ素131被曝は免れられなかったのだ
どれ程の被曝線量だったかさえ不明なままだ
東電は自主避難の賠償金の名目にすりかえて知らぬ顔だ
家族一人当たりの将来を賠償する?
十八歳以下と妊婦が賠償対象者と来れば誰もが気づくはずだ
恩着せだ。甲状腺ガン発病の際の―
原発の交付金と同じなのは一目瞭然だ
3
忘れたい気持ちとは裏腹に
忘れ去られたことにされる
漏れてながれ出しているのに
騙し続けては押し付けてくる
悪魔の笑いが木霊する
平和とはパラドックスだ
悪魔とのいたちごっこだ
悪魔が呼んでいる
悪魔の徒党が村や町に寄せては返す
ここだけいつまでたっても屈せられたままだ
どこも何も終わってなんかいやしない
一体、何と勘違いしていたんだ?
初めから墓穴を掘ってくれる見返りだった
凌辱だ
毒と知りつつ
たかり合わなければ生きては行けない凌辱
底が抜けて底無しの―
悪魔さえあきれはて驚いている
行き着く先は―
覚悟の上だぞ