<経歴>
1961年、鹿児島県生まれ、鹿児島県指宿市在住。
詩集『春の挨拶』『燃える船』『光のしっぽ』『固い薔薇』『賑やかな眠り』。
2002年、詩人会議新人賞。
2003年、2002年度南日本文学賞。
2010年、第38回壺井繁治賞。
2011年、第12回白鳥省吾賞優秀賞。
所属と参加詩誌:
詩人会議、日本現代詩人会、日本詩人クラブ
「刺虫」「詩創」「天秤宮」「野路」「コールサック」
<詩作品>
石の断章
川を逆流するのは
波ではない
石だ
すべてを呑み
やがて
すべてを
石に変える
遡り
溢れた一帯には
一本の巨大な
石の樹が
横たわるばかりだ
(石の樹)
幾つにも
枝分かれして
石の樹は
世界に
溶けてゆく
指のように
分かれた先端
石の波が届き得た
もっとも奥深い陸地で
石は初めて
夢見ることができる
さらに内奥へと
伸びようとした
指先で
岸をまさぐる
その痕が
石の書いた
文字だ
(石の夢)
石にも
体温がある
石の文字は
いつかその
冷たいとさえ感じられる
体温によって
溶ける
(石の体温)
溶けることで
石は眠る
ほどけるように溶けることで
かえって
深まってゆく
記憶の密度
石は謎である
(眠る石)
歌う石
火山のつらなる高原には
風が吹くたびに
歌う石がある
というので
思い立って
ぼくたちは
休日に
石を探しに
めぐり歩いた
設えられた木の階段を上り
坂道を下り
湖畔をめぐって
脚が
重たい丸太になるまで
風は冷たかった
駐車場わきの売店では
準備不足のヒト多いのよねえ
と言わんばかりのおばさんから
マフラーを買った
あろうことかぼくはサンダル履きで
振り返ると妻はハイヒールを履いていた
ちょっと散歩って
何時間も歩かされるなんて思わなかった
やっと立ち寄ったトイレの前で
ぼくは妻に土下座する羽目になった
けれど
朝霧が濡らしたあと
乾きかけた土の足ざわりは
固すぎはしなかったわ
町中で聞く鳥の声って
もっとうるさく感じるよね、と
野鳥の声を聞いて
ぼくたちは仲直りしたのだけれど
あれは石が歌っていたのだ