<経歴>
1947年、徳島県生まれ、徳島県在住。
詩集『未知子』、『川を飼う叙景歌』、『生き惑う』、『仮眠室』、『空耳』、『三本足』『声』。
日本現代詩人会、徳島現代詩協会、各会員。
「兆」同人。
「コールサック」に寄稿。
<詩作品>
人生の運転席
しばしば聞くことがある
人はまず姿勢だと
きちっとシートに座り ぴんっと背筋を伸ばし
針一時五十分の角度 両手でほどよくハンドルを握る
すると意外に
事故も疲労も少ないらしい
この姿勢がかるい緊張を生み走りは安定すると
いかにも そういう運転もある
けれど持続するのはたいへん
さてと 運転しているさなか
生きいきしているようで 頼りなく
あいまいで くずで がめつく
気みじかで いつもいらいらして
だれにも好意を持たれたくて くたびれて
やっぱり ひとり走りたくなり
自動車なのに自動でないから
たしかにハンドルは握っているのだけれど
運転している感じじゃない
捉えられない何かがしっかり差配しているよう
首輪をうまくはめられているよう
おっと そのことを熟知しながら
つぎつぎと日を重ねる
手応えなさを逆に楽しむ
他人ごとのように毎日をつるんと滑っていく
どんなパニックも困りごとも賞味していく
ここまでくればどうにでも翻弄されてやれ
おんぼろの運転席で飲酒して鼻歌まじり
でも 最後にこのエンジンを止めるのは僕だよ
白い日
突然ゆがんだ棒になる
涙がつたって流れる
そっと止まるのは雪いや
わたしがいない空白のかなしみ
することのないかなしみでなく
衰える肉片のかなしみでなく
蓋された感情のかなしみでなく
ただに生きているかなしみでなく
わたしの白い日はひとり歩き
それでいて 深くもぐる
遠い時間の下水にまでつながり
かなしみは白ネズミとなって
どこまでも走りまわる
かなしみを捕らえられないか
一転 かなしみに抱かれられないか
わたしの裂け目
そんなところでかなしみが生きいきする
かなしみにひとり浸り
だれともつながることを願わない
かなしみを味わうことはしない
かなしみのムカデをさぐつて
切開手術
摘出してどう始末したらいい
怒らない 叫ばない 耐えない
やけにねじまがった固い棒
わたしはかなしみの白い杖となり
あてもなくさまよう