牧葉 りひろ (まきば りひろ)
<詩作品>
春の雨あがり
湯気がたっている
焦げ茶色の地面から
ほぐされたやわらかな土から
平べったい
巨大な
饅頭が
畔で区切られて
ふかしあがったようだ
連日の雨があがり
春の朝日をうけて
湯気はあたり一面
田畑にゆらめいている
畑が
田んぼが
生きている
生まれている
虫の音浴
ようやく暑さのやわらぐ九月の夕べ
二階のベランダに出てみると
薄暗闇につつまれた庭のいたるところから
ジージー
リーンリンリーンリン
コロコロコロ
クツクツクツクツ
ミーンミーン
シーシーシー
草むらから
葉の間から
小枝の隙間から
つつみ込むように響いてくる
虫の音の輪に取り込まれて
このままどこかに昇っていきそうだ
今日一日の心労も
身体の疲れも
どこかに飛んでいきそうだ
涼やかな大気の中に溶けてしまいそうな
初秋の宵