池山 吉彬 (いけやま よしあきら)
<経歴> 1937年、長崎県生まれ、千葉市在住。日本現代詩人会、千葉県詩人クラブ、各会員。詩集『夏のひかり』、『ジュニペラス・バージニア』、『林棲期』、『精霊たちの夜』、『都市の記憶』、『惑星』。
<詩作品>
八月のブランコ
都市の一隅に設けられた
ちいさな公園
透きとおる陽差しのなか
幼な子が歩いてくる
やっと立つことのできたよろこびに
頰を赤くかがやかせて
よちよちと 歩いてくる
細長い下水の蓋が彼女の通勤回路である
世界の端っこまでくると クルリと向きを変え
広げられた手の方へ
せっかちな機関車のように帰っていく
狭い砂場ではムクドリが餌を啄ばみ
壊れかけたベンチが並んでいる
風のなかのブランコ
青い桐の葉陰に立つ
ちいさな慰霊碑
ぼくは気づく
白く乾いたこの土地の来歴
かつてここは ひといろの瓦礫の原であった
立ちのぼる荼
だ
毘び
の煙があった
ごみ取りの車で集められた遺骸の堆積があった
だれにどうしようがあったろう
数千度の熱で一瞬に焼かれた無名の人々が
ここで再び無名のままに焼かれ
昼も夜も 祭りの日のかがり火さながら
血と肉と骨がぼうぼうと燃えていった
ここは そのかなしい場所のひとつだ
それら 忘れられた死者たちの
持つことのなかった記憶のために
いま 陽は惜しみなく降りそそぎ
小さきもの
清浄にして無垢なるものが
地を踏んで歩いてくる
世界の端っこから歩いてくる
祭りのあと
祭りは終わった
夏の暑い日差しだけが
街に残った
夏の暑い日差しだけが
街に残った
片足の鳥居をくぐり
石の階段をのぼって
わたしはお前に会いにゆく
祭りは終わった
花をささげる人の影も 祈りの声も消えて
石像の前に置かれた折鶴だけが
その余韻を保っている
わたしはお前を仰ぎ
岩のように堅い樹皮をゆっくりと撫でる
わたしは知っている
かつてお前がまっ黒に焼けただれ
ほとんど瀕死の重傷を負った姿を
けれども 奇跡は起こった
左側面にプルトニウムの光を浴びたお前が
右の幹から そっと小さな緑の芽を突き出したときの
あの驚き
楠よ
お前が人々に与えた限りない勇気
祭りは終わった 八月の祭りは
ひとときの嵐が過ぎ
人々の退場した祭壇で
祭りは 来年も行なわれるだろう
為政者はふたたび誓いの言葉をのべるだろう
そして お前の炎の刻印が消えたように
内なる刻印を持つ者たちも
やがては この地上から消えるだろう
さびしいことだが それはよいことだ
それは世界に新たな狂気の炎が出現していない
というしるしだから
だが 刻印を持つ最後の者が消える
そのときも お前は
威厳に満ちて
立っているだろう
このしずかな丘の上に
深々と濃緑の衣をまとい