「コールサック」日本・韓国・アジア・世界の詩人

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井上 優 (いのうえ ゆう)


<経歴>

1970年群馬県生まれ、みなかみ町在住。

詩集『生まれ来る季節のために』『厚い手のひら』

絵本『眠りの犬』『ウサギしんぶん』『シオンくんのふしぎなクツ』(電子出版)。


日本詩人クラブ、日本現代詩人会、日本キリスト教詩人会、会員。

<詩作品>


時代の魚

ぼくが横たえる魚は 船の上で
静かに 静かに うかんでいる


魚は映すためにある
僕らの表象として


僕があのまだ若い 慈しみの海に
幼く稚い 地球のための


あのまだ若い 慈しみの海に
憧れつつダイヴするとき


太陽は湧き けぶる
血潮よりもマグマに近く
あの空に帰り・還りたがるから


だから船は血の海に浮かび
僕らは歩く 水の上を


そういう時代だって魚が詩っている



僕の知らない曲


 中学校時代、一番仲の好い友達はМといった。僕が科学部の部長
に選ばれ、彼が天文部の部長になってからは、いつも一緒にいた。
二人とも部活そっちのけで、ラジオ工作に熱中したり、アマチュア
無線にはまったりしていたのだ。彼は、大きなアンテナを建て、海
外のラジオも聞いていた。秋葉原がオタクの街になる前に、僕らは
北関東の地方都市から、ラジオや電子工作の部品やアマチュア無線
の機械などを買出しに行っていた。
 


 中学校時代、一番仲の好い友達はМといった。僕が科学部の部長
に選ばれ、彼が天文部の部長になってからは、いつも一緒にいた。
二人とも部活そっちのけで、ラジオ工作に熱中したり、アマチュア
無線にはまったりしていたのだ。彼は、大きなアンテナを建て、海
外のラジオも聞いていた。秋葉原がオタクの街になる前に、僕らは
北関東の地方都市から、ラジオや電子工作の部品やアマチュア無線
の機械などを買出しに行っていた。
 


 群馬大学の附属学校は、変則的な学校だった。大学までエスカ
レーター式ならいいのだけれど、附属の高校が無かったのだ。中学
卒業前に高校入試が待っている。県立の進学校に受かることが命題
だった。受かるのは、学年の人数の約半分だった。僕も彼も、余裕
で受かるはずだった。二人とも模試で、県のトップクラスに入って
いる。彼は僕より少し成績が良かった。
 僕は無事志望校の前橋高校に合格した。意外だったのは、合格者
名にМの名前がなかったことだ。
 


 後で判明したことだが、彼は隣の市のライバル校である高崎高校
に受かっていたのだ。
 


 何も言わないで、ライバル校に入学を決めたので、僕はかなりム
カついていた。下半身の恥ずかしいことさえも、お互いに打ち明け
られる程の仲だったはずなのに。
 


 家業の病院が、高崎市に移転することは聞いていた。でも、越境
入学もあるし、寝耳に水だった。ムカつきの原因は「何で学校のこ
とを、言ってくれなかったのか」の一点だった。


「昨夜、井上君の為にFM局から曲が流れたのよ。М君から贈られ
たの。違う学校へ行かなくてはならないからだって。」
 教えてくれたのは、今まで話したことのない女の子だった。何故
ライバル校を志望したのかもDJがメッセージで話したという。
 その夜、僕は久しぶりに涙を流した。今までとは質の違った、少
し大人になった印のように思えた。
 その曲名も知らないが、未だに僕の一番大切な曲だ。
 


 二十五年も経って、僕は返礼を書いている。


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