<経歴>
1943年 岡山県備前市生まれ、倉敷市在住。
詩集『花を持つ私』『影について』『石仏のように』『雪をください』『わたしの冠』『野鳥へのたより』
『月の夜』『立つ』『咲かせたい』『いのち』。
2010年 コールサック詩文庫『吉田博子詩選集一五〇篇』。
2011年 詩画集『聖火を翳して』(コールサック社)。
2014年 エッセイ集『夕暮れの分娩室で―岡山・東京・フランス』(コールサック社)
<詩作品>
雪をください
素朴に持ち上げた私の腕に
雪をください
野仏のみ手になにげなく降り積んだ雪のように
私の短い円い右腕にも
白いふっくらした雪をください
これ以上働くことは出来ません
これが精一杯です
私の今日は終りです
言葉は掛けず
雪をください
夕暮れをください
沈黙の子守り歌をください
母なるものよ 地上へ降りてきて
私の身体を横たえてください
野仏も横になりたいのです
子供にとって 良き母である事も
夫にとって よき妻である事も
社会にとって 良き社会人である事も
職場にとって 良き働き手である事もぬきにして
私の疲れた腕に
綿のように軽々とした雪をください
たっくんと娘
娘の家の中では
米びつの上に雨蛙が座っている
冷蔵庫の横にはこめつきバッタが
ひっついていたり
ハムスターと鶉を飼っている隣の部屋
古い畳の少しの透き間から
青大将が上がってくる
たっくんと一緒に大格闘をして
袋に青大将を入れ警察に持っていく
警察官もどうしようもなく
「それじゃあこちらで何とか処理しましょう」
二 三日したら
同じ青大将がちゃんと帰ってきて
娘に向かってドアのところで笑ったという
今夏には外の傘立ての中で
そのヘビがまるくなっていたという
餌をくれる人はピラニアでもよく知っているらしい
話しかけてくるような様子をしたり
餌の時間には一定の餌場に来ているそうだ
二次元 三次元の世に住まう
娘と その子である