<経歴>
1931年 広島県生まれ、東京在住。
詩集『貧者の求愛』『けやきの絵』『教師の詩』『絵になる風景』『わが家の庭』『八月の幻覚』
『日陰に咲く』『皆既月食』『孫娘とタンポポ』『スイちゃんの対話』『笑生ちゃん』。
2010年 コールサック詩文庫『山岡和範詩選集一四〇篇』。
詩人会議、いのちの籠、各会員。
<詩作品>
シンちゃん
シンちゃんは サイミンジュツをしっている
教室であばれては 先生になぐられている
中学二年生の問題児
そのシンちゃんが サイミンジュツをしっている
小学六年の子が黒山になって
一人が目をつぶってすわっている
シンちゃんは その子にかばんのひもをつかませ
「かばんがくっついた もちあげられない」と
きびしく言えば
かばんは台から はなれない
「もっと力をいれて」と黒山が叫ぶが
もち上がらない
「目をきつくとじる」と言えば
ほんとうにきつく しまっていく
シンちゃんの目は するどく きびしい
シンちゃんの目は ぼくを見て
「先生がいちゃ はずかしいな」と言うが
心の奥で ぼくはふるえている
〈ぼくは ほんとうに シンちゃんを
だいじにして あげただろうか〉
「シンちゃんは 大したもんだ」
と ぼくは かたをたたいた
シンちゃんは ぼくをちょっとにらみ
それでも笑顔をみせて
「一年も練習をしたんです」
目がねの先生が やってきて
「目をつぶらせるなんて ひどいわ
人権ジュウリンだわよ やめなさいよ」
と こわごわどなる
シンちゃんは 目はきついが やさしく
「大丈夫です 精神に影響はあたえません」
シンちゃんは 人権をジュウリンされてきた
教師からも 親からさえ
ただテストの点だけで人間を評価する
資本主義のもとでの教育そのものから
人権をジュウリンされどおしだ
シンちゃんは おびえ おびえ
おびえとおして 目がきつくなった
シンちゃんは ふくしゅうのために
一年のあいだを サイミンジュツにかけた
誰もできない サイミンジュツ
それが シンちゃんにはできる
なぐった教師も
シンちゃんをばかにしていた友だちも
もはや シンちゃんを みとめないわけにはいかない
シンちゃん
シンちゃんのすばらしい人生は
こっからはじまるんだ
こっからはじめるんだ
人権をジュウリンするものへの
いかりをこめたほんものの学習を
苦しくてもまっとうに
いまから はじめるんだ
けやきの絵
がっしりと
おれの学校の庭に立っている
冬の空に
針のような枝先をつきあげる
けやき
おれはこのけやきがすきだ
クレヨンと画板もたせて おれは
このけやきの木の下に子どもたちをつれてきた
気温のきびしいその日
おれはいう
この幹を たたいてみろ
がっしりと ふといな
枝先をよーく見ろ
枯れてはいないぞ!
ほら 皮をかぶった芽が
いっぱいついているぞ!
子どもたちは いっせいにかきはじめる
まず 幹を がっしりとふとく
幹は自由に うでをのばし
冬の空をつかむ
ふくらんだ芽を赤くぬる子ども
枝先にわかみどりの芽をふかせる子ども
おれには気づかなかった根を発見して
ごつい根っこをぬっている子ども
おれはひとつひとつの絵がみんな気に入って
教室のかべいっぱい
子どもたちのかいた
けやきの絵をはった