「コールサック」日本・韓国・アジア・世界の詩人

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武藤 ゆかり (むとう ゆかり)

略歴
1965年 茨城県常陸太田(ひたちおおた)市生まれ
1987年 東京外国語大学外国語学部英米語学科卒業
1989年 茨城新聞社入社
1999年 同社を退社
現在は詩歌と写真の分野で表現活動を続けている

(著書)
1998年 写真詩集「吹き寄せ花」(光村印刷)
2000年 詩集「砂と星」(葉文館出版)
2001年 写真詩集「露のあとさき」(新風舎)
2006年 詩集「すくすくさん」(文芸社)


【詩の紹介】

黒衣の女


ラーリラリラリラ
ルーリルリルリル
ラーリラリラリラ
ルーリルリルリル


私は鳥の女
夕風に吹かれ
楽園を探し
黒い羽根はためかす


私には親がない
子供もいないから
人の形をして人ではない
女の姿をして女でもない


いつからここにいたのか
いつまでここにいるのか
ラーリラリラリラ
ルーリルリルリル


曲がりくねった迷路
乾き切った石畳
枯れ枝のような私の腕
引き寄せる者の酒臭さ


暗い二階へ上がる
狭い窓がある
藁を敷いた台座
押し付ける唇


一杯のスープが
欲しくはないか
お願いパンもください
足の先まで冷たい


椰子の木がざわめく
悲鳴を運んでゆく
言ったろう声を出すなと
目も口も覆う手のひら


月よ私を照らすな
裂けた衣を射るな
土間を出るその刹那
音立てて倒れる男


長身の年増女に
握られた肉包丁
その髪は白く乱れ
敷石に血は吸われ


幸せはどこへ行ったのか
幸せを見たこともない
声を立ててはならない
少なくとも明るい夜は


ラーリラリラリラ
ルーリルリルリル
黒衣の女が来るよ
目を合わせるでないよ


遥かなる異邦人
栗色の髪と瞳
渚に足跡つけて
鳥の歌を口ずさむ


西の果て海の彼方へ
旅に出る男がまたひとり
炭焼きの魚の肌より
ざらついた肩と背中


黒衣の女には声がない
アルファマの街が噂する
日の出まで共に過ごせば
無事帰れると語る


戸を叩く者たちは
話をしに来るのではない
名前も年も聞かない
私も何も答えない


擦り減った階段を
壁伝いにどこまで
城塞に身を潜め
鳥になるその日まで


ラーリラリラリラ
ルーリルリルリル
ラーリラリラリラ
ルーリルリルリル


風巻き上がるサン・ジョルジェ
お前には私が分かるだろう
砂運び去るリオ・テージョ
お前には明日が見えるだろう


オリーブの種を蒔いたことがある
拾った猫を育てたこともある
けれども芽は摘まれ
猫は吊るされた


この大地は太古の地層
黄泉の国の始まり
雨と血と涙を
呑み込んで赤くなる


丘の上に立てば
荷を積んだ船の数々
首飾りと腕輪と
南国の甘い果物


船乗りは狭い路地へ
母の妻の胸へ
誰も私を忘れ
誰も私に戻らない


教会の鐘が鳴り響く
垂れ幕の後ろで手が招く
聖なる人の犯した罪も
私の担う重い罪


上り下りの細い坂
幾たびもあえぎつつ走る
金色の水を濁らせ
沈みゆく出来損ないの命


ぼろぼろのスカートを重ね
泉湧く街を後にする
ほこりまみれの顔を
四月の雨が打つ


生まれる前に帰ろう
別れを誰に告げよう
黒い裾ひるがえし
鳥の歌を歌い


遠い記憶のフェニキア
いにしえの幻のムーア
戒めをやっとほどいて
私は喉を震わせる


靴を知らない足よ
愛を知らない胸よ
ふるさとよ星の光よ
ちちははよ波の翳りよ


ラーリラリラリラ
ルーリルリルリル
ラーリラリラリラ
ルーリルリルリル


  「COALSACK」51号より




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