「コールサック」日本・韓国・アジア・世界の詩人

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下村 和子 (しもむら かずこ)

【経歴】
1932年兵庫県生まれ。大阪市在住。
詩集『弱さという特性』、『手妻』『下村和子全詩集』など。
エッセイ集『遊びへんろ』
文芸誌「原石」発行。詩誌「叢生」「コールサック」などに参加。
日本文藝家協会、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、日本ペンクラブ所属。




【詩の紹介】


神さまは善良過ぎた


〈負けました〉
相手が頭を垂れれば それ以上の攻撃はしない 強い歯鋭い爪を持つ狼は同類は殺さない


平和の鳥 鳩を
二羽一つの籠に入れておくと 籠の中の餌を争って どちらかが息絶えるまで攻撃をする


下界の様子を見ながら 神さまはどうすれば美しい国を作れるか相談なさったそうだ そして創り出されたのが 身体に武器は持たないが知恵を持つ生きもの 詩を書く者も育つだろう 仏を創るものも現れよう 空の青を描く画家も 心をふるわす音楽家も……


武器のない あたたかな国が 神さまの理想通りにできあがった 人と人とは愛し合い 男と女は睦み合い……愛にみちた楽園ができあがった 神さまはにっこり安堵されていた 愛の巣からは一人生まれ また一人生まれ生まれ生まれ 地球上は人だらけ 食物や場所が足りなくなった


あるとき こっそり一人の男が考えた
〈俺は貧しい だが皆の持たない武器を持てば勝てる 豊かになれる〉
身体に武器をもたないニンゲンは 歯止めも身につけていない行き着く先は果てがない〈面倒だ 一度にやってしまえ 大量殺戮だ 俺たちは頭がいいから何でも作れるんだ〉


今 都内某所では 生みの親の神さまを殺す方法を秘かに考えているとか 知恵を持たない生きものを材料にして実験が日々なされているとか……神さまは涙を流しながら それでも負けるわけにはいかないと 今度は微生物を使った作戦をじわじわ進められているらしい



ディーバ

一本の樹が
真直ぐに立っている
どれほど永く
どれほど深く
一日一日伸ばしていっただろう
樹の根に触れる


四方の見えない土の中で
自分の場所を守って
幹を支えている樹根
石を避け 樹体を捩りながら 姿勢を保つ
人はあの形から 祈りを習ったのだろう
己の心の卑しさを恥じて
朝の眩しい光を辛抱強く待つ
樹の生き様を学んだのかもしれない


遠い先祖たちは
そんなあなたを柱にいただいて
神の社(やしろ)を建てた
あなたの神性を信じて―


あなたを慕って
風が穏やかに入りこみ
ちょっと遊んで 抜けて行く
山の風 里の風 海の風が
残していったお話を
木は嬉しそうに蓄えている
木造建築の神社には
百年 千年の物語が潜んでいる


杜(もり)の中は 静かだけれど 華やか
私は木の移り香の中で
耳を傾け
私の道を探す
この寂の時間が好きだ

 

   *自然の内に存在する(高次の知的エネルギー)
      または(輝くもの)―サンスクリット語。


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