【経歴】
1939年 金沢市生まれ
【著書】
詩集 『なりふりかまわぬ詩』、『空に知ろしめす』、『子宝』、『徳沢愛子詩集』、『みんみん日日』、『シオンの朝』、『加賀友禅流し』。
金沢方言詩集 『ほんなら おゆるっしゅ』、『いちくれどき』、『花いちもんめ』。
エッセイ集 『水曜日記』、『愛は絶えることなし』。
【所属】
詩と詩論「笛」、俳誌「WA」、童詩「こだま」、個人詩誌「日々草」 発行人、「石川詩人会」、「石川県文芸家協会」、「日本現代詩人会」、「日本ペンクラブ」「日本現代詩歌文学館評議会」。
【詩を紹介】
加賀友禅流し
男川 女川が街を巡る金沢
遥か呼び交わす艶やかな声
金沢の鈍重な空を明るませる
男川で産湯をつかった鐵山さんは
代々引染職人
胸まであるゴム長靴が似合う
投網のように一枚の友禅を
空中に開く
金沢が あ と叫ぶ
黒一点の鐵山さんは宇宙のコア
色鮮やかな一条の加賀友禅
情念の権化 女蛇が放たれる
男川に華やかな裸身を踊らせ
大海を目指すが
寒椿より紅い彼の両手は
めくるめく命を離さない
金沢は底冷えの冬
友禅の糊や余分の染料を洗い流す作業
必要なものはほんの少し
本当のものは質素な言葉と
素朴な働き やさしさのオーラ
最後の仕上げのため
振り落し 魂削って 祈り織りこみ
腰を折って洗い続ける
加賀友禅に取り憑かれた男に
命を吹きこまれた女蛇は切なくくねる
橋の上から見下す旅人たちは
浮世を浮き立つ水中の宴の賓客
だが 見よ今は 地球はいじめ抜かれ
男川も女川も浅くなり
女蛇の花模様の腹は傷だらけ
わが半身よ と逞しく空へ叫んだ人は
わが半身よ と今 深くしょぼくれる
少し老いた鐵山さんは
町を四角く流れる薄闇の用水で
痩せた女蛇の裸身を洗う
しゃら しゃら しゃら
寂しい水音たて
*友禅流し
加賀友禅の工程半ば流水で糊や余分な染料を洗い流す。昔は金沢の犀川(男川)、 浅の川(女川)でよく見られた風物詩であったが、今は建物の中の人口川や 町角の用水で洗っている。