<経歴>
<詩作品>
警 報
サイレンが鳴る
この夜ふけ
消防署の
サイレンが鳴る
どこかで火事だ
野次馬が
外へ飛び出す
外は闇だ
闇のうえに深い霧だ
何も見えない
サイレンの音だけが鳴っている
確かに火事だ
どこか燃えているのだ
火をつけた奴がいるのだ
火をつけた奴はだれだ
野次馬は
火事場を探して歩く
火事場はなかなか見つからない
探しあぐねて
ふと我にかえると
燃え尽きてしまった街の中を
一個の骸骨となって
歩いていた
なぜ詩を書くのか
―わたしの「詩と真実」
子どものころ
田舎の道の曲がり角で
チャルメラを吹きながら飴を売ったり
赤牛に荷車を引かせて通る朝鮮人と出会うことがあっ た
わたしたちは覚えたばかりの片言の朝鮮語で
彼らに侮蔑のことばを投げかけた
こんな民族蔑視の果てに
村の若者は戦場に消えて
若い妻はやもめになった
町はB29の空襲で焼け野原になり
子どもに残された道は戦場だった
その頃
歴史に名を残す詩人までもが
「神風」という奇妙な日本語に欺かれて虚偽の歌をつ くった
その結果
地球はヒロシマ・ナガサキというあばたを刻んで
いつ軌道が狂うかわからないしまつだ
この時代に
なぜ おまえは詩を書くのか
なぜ グループをつくり詩誌を発行して
売り歩くのか
ある人は言う
「詩は芸術である」と
芸術ならば価値がある
でもその価値は人々の糧になり得るか
そんな疑問の起こる暮らしの中で
わたしは書く
自分の感情に正直に
日本語のリズムで
イギリスの地下鉄でテロに向かう四人の青年の悲哀
そんなテロを生む政治
テロに殺される市民
拉致されたわが子から生まれたという少女と
抱き合うこともかなわぬ祖父母の悲劇
教育を賄賂で汚す輩のニュース
長い年月、闇から抜け出せないヒバクシャ
―なおも核実験を続ける国!
それら無数の 折々の状況が
わたしに呼びかける
再び過ちを繰り返さないことば
行動に裏打ちされた真実のことば
芸術としての詩を
おまえのことばで
生きている証として
この地球に彫り込め と