山下静男詩集
『クジラの独り言』
アメリカ海軍の潜水艦の記録には
ヒゲクジラが
十二年ただ一人で遊泳していると言う
これまで聞いた事のない
声を発しながら
栞解説:鈴木比佐雄 |
A5判/136頁/上製本 |
定価:2,160円(税込) |
発売:2010年7月29日
【目次】
Ⅰ 野仏様
むかしあった練兵場で
吹き消した者は
また背中がひりひりする
く つ
京山物語
Sを見付けた
戸板の人は
山のスケッチ
出べそ
根っこ
蒲公英
重ねた足がはずれる間の
カナリヤのための窓
野仏様
Ⅱ クジラの独り言
クジラの独り言
蚋
いぬのふぐり
熊ん蜂
留守 留守
鍵 は
蚯蚓が光る
たばこの吸い殻が
エイッ
待つということ
頑張ろう
ニュージーランドで⑴
ニュージーランドで⑵
似 顔
霞んだ空から
あとがき
略 歴
【詩篇紹介】
クジラの独り言
小鳥の声に目をさました
なにかを訴えている
窓を開けて耳をそばだてると
カザルスのメロディー(*)を残して
舞い上がった
言葉でさえ
なかなか心の谺を伝えてくれない
中国の若者の排日デモ
いまの日本人にはよく伝わらない
郵政民営化の大事な法案
与党の議員でさえ分からない
前夜仕込んだ知識を
机をたたいて教えたが子供達は生あくび
三十年連れそった妻でも
遺品の日記に
主人には私の言葉が通じませんと
七十年来使って来た文言は
朦朧として形を成さず
指を開いて空をつかむ
あげつらうように
自分の詩の連なりが
巻き上がりながら消えていく
アメリカ海軍の潜水艦の記録には
ヒゲクジラが
十二年ただ一人で遊泳していると言う
これまで聞いた事のない
声を発しながら
*パブロ・カザルス「鳥の歌」