うおずみ千尋詩集
『牡丹雪幻想』
うおずみ千尋は緑内障から失明に至った。
以来、心耳・心眼・心性をもって、言語を紡いできた。
その世界は澄々とし清々とし端正である。
心根からのおもいは、やさしく、
ぬくもりのある声となって私たちを魅了している。
山本十四尾(帯文より)
栞解説文:鈴木比佐雄 |
B5変形判/98頁/フランス装 |
定価:2,160円(税込) |
発売:2007年4月25日
【目次 】
第一章 牡丹雪幻想
牡丹雪幻想 8/覚醒 12/泳ぐ 16/小橋 18/波頭 20/春雪 22
飛ぶ 24/蛍 28/湖底 32/百日紅 36/囲炉裏 40/積雪の夢 44
第二章 シーラ カムイ
シーラ カムイ 48/啓示の雨 52/大銀杏 56/風衣 60/はなびら 64
風の中 66/ジャム・トースト 68/鳥 72/贈り物 74/朝 76/寒水仙 78/二月の海 82
あとがき 87
【詩集題の詩を紹介】
牡丹雪幻想
届いてしまいそうな空を見上げ
傘を開く
いつの間にか
花びらに似た雪片が
肩に
袂に降りかかり
錆朱色(さびしゅいろ)の細い矢模様の先に 瞬間留まっては
小さな
水滴になる
通りの向こうのバス停にも
雪は舞っている
垂れ落ちた窪みから零れ出て
何と
軽やかな片々
バスを降りて来た男(ひと)の
黒いコートに降りかかる
胸に裾に降りかかる
城下町の凍てる石畳
向こう側と
こちら側
佇ち尽くす無言の距離に
白い花が
舞っている