大原勝人詩集
『通りゃんすな』
せめてあの橋を渡れば・・と/行手を遮るものがある/それは、通りゃんすな、と/煩悩の此岸に私を押し返した/かずらのように痩せ細った亡き父母の手だ
(「通りゃんすな」より)
栞解説文:鈴木比佐雄 |
A5判/104頁/ソフトカバー |
定価:2,160円(税込) |
発売:2007年4月15日
【目次】
花の叫び
終日吹雪
伊春(イチュン)の春
追跡者
特別寝台車
鳥葬
ポタラ宮殿
砂の館
2章 十輪院の火渡り
十輪院の火渡り
俺のふる里
太陽に向って走れ
瀬戸の潮騒
ホームレス
夕陽の森
鯛の行方
の葉物語
嘘
3章 通りゃんすな
通りゃんすな
回帰
赤とんぼ
乱れ雲
おふくろ
路
秋桜
小舟
早春譜
花の季節
秋
回天 砕け散る
あとがき
【詩を紹介】
ままにならない手術台の上から
一本の橋が暗闇に向かってがっている
渡ろうか渡るまいかと
迷い佇んだその橋も取り壊されて
エーテルの匂いが漂う径を
後戻りしたあの日
チラチラと見え隠れする
彼岸の灯りを背に
りついた村の広場
くりひろげられた盆踊りの夜に
浴衣姿の輪に踊った愛ちゃんや
鉦や太鼓で秋空を焦がした宵宮に
祭り半纏の渦の中で
御輿をかついで汗に溺れた哲ちゃんも
みんな村はずれの橋の向こうへ
姿を消してしまった
凌霄花(のうぜんかずら)の花だけが鮮やかな
朽ちた橋を渡ろうとして
またしても纒わりつくかずらの通せんぼ
生きるという聖域に名を借りて
み違った歯車は狂ったまま
くり返し重ねてきた恥と慾の数々
悔恨の海は深く淀み
怨嗟の声だけが遠く海鳴りのように
魂をしめつける
せめてあの橋を渡れば……
と行手を遮るものがある
それは、通りゃんすな、と
煩悩の此岸に私を押し返した
かずらのように痩せ細った
亡き父母の手だ
*エーテル‥溶媒液。麻酔に使用する。